ドリーム・ドリーム・ドリーム二人ともサッカーしてないパラレルなお話です。何でか分かんないですが、転生ものっぽくなりました。




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海の向こうにすごいサーファーが居る。

友人がそういって差し出してきた雑誌には二つ三つ年上の少年が写っていた。正直オレはサーフィンには全く興味が無かったけれど、何故かその写真の人には強く惹かれた。

「つな…、み、じょうすけ…」

小さく呟いたオレに、友人が何か話しかけてきたが耳に入ってこない。初めて見た筈なのに、何故か昔から知ってるような気がする。綱海…綱海、さん……。



それから数ヶ月。部の合宿で沖縄に行くことになった。
件の友人は綱海条介に会えるかも、と騒いでいるがそんな偶然あるはずないに決まっている、バスに乗り込みそう言った俺に友人は反論を繰り出す。

「でもお前だって鞄の中に雑誌入れてたじゃねーか」

そう、ほんの数ヶ月のうちに俺は雑誌を買うほどに綱海さんに惹き付けられていた。友人は俺がサーフィンに興味を持ったのかと喜んだが、正直サーフィンには全く興味はなかった。それなのに、どうしてだろうか。

「え、何でみたの?……やめろよな」

「持ち物検査だよ、純粋なる立向居くんがエロ本とか持ってきてたらこまるから」

「そういうお前はどうなんだよ」

「可愛い女の子を現地調達かなー」

アホらしい、と友人を横目で睨むが効果はない。それどころかますます調子に乗って計画を話し出した。

「女の子たちは男ばっかのグループに入るのは緊張するだろうから、まずは誰かがだな――」

くだらないと感じ、小さく欠伸を漏らす。瞼を閉じ、次に目覚めたのは沖縄に着いた時だった。


一日目は自由行動だ!、という監督の言葉に歓喜の声があがる。そうはいってももう半日もないのだが、モチベーションの問題だろうか。
とりあえず出かけるという友人数人に連れられ地図を頼りに繁華街へと出た。そこまではいい、いいのだが――

「おい、どういうことだよっ!」

自分でも珍しく声を荒げたと思う。だが、それは仕方がないことだろう。誰だってあれやこれやの内に女装させられたら文句だって言い切れないほど積もるのは当然だ。
しかし、オレの声を聞き流し主犯核の友人は満足気に頷いた。

「よし、なかなかだな。ちゃんと女子に見えるし、違和感もない」

「だから、どういうことだよ!」
にやり、と笑った友人の説明を要約するとこうだ。――ナンパしても男子だけのグループじゃ女の子入りづらいよね、じゃあ女の子入れとけばよくね?マネジは?忙しいって。じゃあ誰かが女装したらいいじゃん!…な、立向居。

「…ふざけんなっ!」

怒りを通り越し呆れてきた。とにかく、女装した上にナンパなんてやってられない。友人の制止を振り切り当てもなく駆け出した。

「…はあ、はぁ……。どこだろ、ここ」

オレは地図を持っていなかったので場所の確認のしようがない。鞄に財布と携帯は入っているので帰れないことはないだろうがとんだ災難である。汗ではりつくウィッグがうっとうしいが、取るわけにはいかない。取ってしまうと女物の服を着た変態になってしまうからだ。
とりあえず現在地を把握しようとあたりを見渡していると後ろから肩を叩かれた。恐る恐る振り返る、すると同じように息を切らした友人(サーフィン好きの彼である)が居た。

「……なに?」

「なに?、じゃなくて。いきなりどっか行くから追いかけて来たんだよ。悪のりが過ぎたのはあやま――」

友人の言葉が途中で止まる。どこか一点を見つめている友人に対し、俺は不審な目を向けた。

「なに、って?」

「あ、あれ――」

友人が指差す先を見る。
褐色の肌、目立つピンクの髪。そして片手にはサーフボード。
――間違いない、綱海さんだ。まさか、会えるなんて。

「まじかよ……なあ、どうする、立む――」

友人が言い終わる前にオレは綱海さんに向かって駆け出していた。渡る横断歩道の信号の色は確認していない。でも、友人が追いかけて来なかったことから察するに赤だったのかもしれない。いや、いや、そんなことはどうでもいいのだ――目の前に、綱海さんが居る。

「あ、あのっ!」

思わず声を掛けてしまった。綱海さんがこちらを向く。どうしよう、次の言葉が続かない……。

「お、オレ、綱海さんの……ファンなんですけどっ!」

言ってしまった。ファン、という表現が正しいのか自信がない。そもそも、サーフィンに興味のないオレにファンだと言われても困るだけかもしれない。

それでも、伝えずにはいられなかった。


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磯の香りがした。

10:Dec:14th/top