思い出とは、美しくあるべき、なので久風。5年後設定。



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思い出とは、また、美しいものでなくてはいけない。


イナズマジャパンメンバーでまた集まりたい。そう円堂守――かつてのイナズマジャパンのキャプテンであった彼から連絡があったのは数日前の事だった。私は彼と連絡を取り合うような関係ではなかったが娘の冬花は今でもたまに会うらしい。そうでなくとも、いまやプロサッカープレイヤーである彼のことはテレビや仕事の関係でよく目にするが。

とにかく、また集まるということに特に異論は無かったし、冬花にその話をするととても喜んでいた。
私自身、昔の懐かしい思い出に浸るのも悪くないと感じた。実際、最近もまだ交友のあるイナズマジャパンのメンバーなんて鬼道と佐久間ぐらいのものだ。各々がどのように成長したのか気にならない、と言ったら嘘になる。


そんなこんなで詳しい日程等を決めるために円堂と話し合いを行うことにして、今はその為の待ち合わせ場所にいる。
そこではたと重大なことに気づく。…確か今は海外での大会の為に円堂も招集されていなかったか…?


「久遠監督!」


案の定、後ろから呼び止める声は円堂のものではなかった。

・・・・・・・・・


最初こそ苦笑していた彼だったが、どこか座れる場所を、ということでカフェに落ち着いたときには涼しい顔をしていた。

「俺はアイスコーヒーで。…監督は?」

「同じのを頼む」

彼、風丸一郎太はイナズマジャパンのメンバーの一人である。確か、円堂の幼馴染みであったか。今朝急に円堂からメールがあり代わりに私との待ち合わせに行くように頼まれたらしい。当の円堂は自身が海外に居ることをすっかり失念していたそうだ。彼らしいといえばそれまでだが今年二十歳になるのにそれで大丈夫なのだろうか。

「――それで、監督」

「監督はやめてくれ。もう監督じゃないんだ」

「ええと、じゃあ、久遠さん?」

小首を傾げながら尋ねる風丸は昔とは違い髪は肩に付くか付かないか程度の長さしかない。それでも男としては大分長い方だが過去の彼を思い起こすと随分思い切って切ったように見える。

「日程とか…どうします?全員の連絡先は一応知ってますけど」

「……そうだな…」

言葉が詰まってしまう。よくよく考えてみると風丸一郎太とまともに会話した記憶があまりない。イナズマジャパンメンバーであった時の彼は真面目でよく気が利くタイプであったように思う。だからこそわざわざ面と向かって話すことも無かったのだろう。

「…そういえば、久遠か…久遠さんは、今何をやっておられるんですか?」

無言の私を見かねたのか、それともただ気になっただけなのかは分からないが風丸が私に問いかける。さすがに年賀状程度のやりとりは続けていたが、あまり近況を書いた記憶はない。だが、私が何をしているか知らないというのは意外だった。

「小学校教諭と、サッカー協会の理事をしている」

「え、理事…?そうだったんですか…俺、高校入ってからはサッカー止めたんで…」

知らなかった、と申し訳なさそうに言う風丸はそういえば元々は陸上をやっていたはずだ。

「そうか、今は陸上か?」

「はい、大学で走ってますよ!でもまあ、今でも円堂に会う度ボールは蹴ってますけどね」

相変わらず円堂は円堂のままのようだ。円堂ほどサッカー馬鹿という言葉が似合う人間はそう居ないだろう。

頼んでいたコーヒーが運ばれてきた。ウエイトレスにまで礼を言う風丸はきっと良い家庭と両親に恵まれているのだろう。対する私は冬花にとって良い親であれているだろうか。しばし思案しつつコーヒーを飲む。目の前で風丸がミルクを二つ入れていたのには少し驚いた。

「小学校の先生と、サッカー協会の理事、ってことはやっぱり忙しいですよね…12月だったらいつ都合つきます?」

顔をしかめ、三つ目のミルクを入れながら風丸が尋ねてくる。意外と苦いのが飲めないらしい。だったらわざわざコーヒーを頼まなくともカフェオレでいいじゃないかと思うが大人のように振る舞いたい年頃なのかもしれない、などと余計なお世話でしかないことを考えてつつ手帳の予定を確認する。見事に仕事の予定しか書かれていない手帳を見て少しさみしいような気がした。

「…15、16以外の休日なら大丈夫だ」

「そうですか…円堂達が帰ってくるのは7日なので、次の日にでも、お疲れさま、ってのを兼ねてやりたいなあ、と思うんですけど」

円堂達――今回招集された中にイナズマジャパンメンバーは他にも何人かいる。豪炎寺、鬼道、佐久間、宇都宮だったか。宇都宮はこれが初召集だ。

「いいんじゃないか」

そう言うと、風丸は安心したように笑って、コーヒーではなく水に口をつけた。
それからたわいもない雑談に花をさかせた――というほど会話が弾んだ訳でもないが、とにかくいろいろな事を話した。イナズマジャパンの時に話した総会話数を軽く越したようにさえ感じた。

そして、会計(風丸は頑なに断ったが、結局私が全額払った。ちなみに風丸のコーヒーはついぞ飲まれないままだった)を終えて、店を出たあと風丸は思い出したかのようにこう言った。

「もう時効かな、って思うので言っちゃいますけど…。俺、昔久遠さん…監督のこと、好きだったんですよ。恋愛的な意味で」

少し前を歩いていた風丸がこちらを振り向きはにかむように笑ったが、その目に映る私はどうしようもなく間抜けな顔をしていただろう。それでも、その目から視線が話せなかった。

「だから、今日久しぶりに会えて、お話できて、すごく嬉しかったです。」

まだ独身だっていうのも分かってよかったです、と言い風丸はいたずらっぽく笑った。





前言撤回、私と彼はイナズマジャパンの時にもっとよく話しておく必要があったようだ。


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久風流行れ(^O^)
くどかんが安定しなくて挫けそうですが、私は元気です。

10:Dec:2nd/top