アンチヒロイズム
夢小説をめざして惨敗。
風丸さんと女の子。

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風丸さん、と呼ぶと彼は美しく澄んだ声で私の名前を呼んでくれる。

その瞬間が私の至福の時で、私はまるで物語の主人公にでもなったように感じられる。もちろん、風丸さんにとって私は数多の後輩のなかの一人。だから、主人公はおろか物語にはモブとして登場できるかも怪しいけれど。

そんな私にとって、あれは滅多にないチャンスだったんだと思う。


部活帰り、陰鬱な雨が降り注ぐのを私はどこか億劫な目で眺めていた。傘はもってきている。でも、やっぱり雨の日というのは憂鬱で、私は玄関から外へと出る一歩を躊躇っていた。
そんな時青空のような美しい蒼が視界に入った。……風丸さんの、髪の、色。私は何も考えずに先輩の名前を呼んだ。

「風丸さ、ん…」

呼んでから少し後悔した。先日宮坂から風丸さんはもう陸上部に戻ってこないという旨をきいたばかりだったから。……もちろん、サッカーをする風丸さんも変わらず素敵だった。けど、サッカーに夢中になりすぎて陸上部を―いや、私のことを忘れてしまうのではないかと不安だったから。

でも、風丸さんに限ってそんなことはなく、私の不安は杞憂に終わった。どきどき、どきどき。風丸さんに名前を呼ばれ、久しぶりだからか私の心臓はいつもより数段高鳴った。

「風丸さんも部活終わりですか?」

「あぁ。……うっかり傘を忘れちゃったんだ」

そうやって恥ずかしそうに笑う風丸さんを見て、私は無意識に自分の持っていた傘を差し出していた。

「……えっと……?」

「よ、よ、よかったら、使ってください!」

「え、でも君が困るんじゃ……?」

「私の家、近いですから!だ、大丈夫です!」

私は思わず俯いてしったけれど、目の端から困惑する風丸さんの姿が見えた。何言ってるんだろう、バカじゃないの、私。
でも、それでも風丸さんは優しく微笑んでくれた。

「……ありがと。じゃあ、いっしょに入って帰ろうか」

「え、ぇ……?」

「あ、ごめん。嫌だった?」

「嫌だなんて!……でも、いいんですか?」

「貸してもらうのは何だか悪いしね。送ってくよ」

内心ガッツポーズを決める私を他所に、風丸さんは私の傘を開き、入るように手招きした。数多の後輩の中でも、風丸さんとあいあい傘(風丸さんはそんなつもりないだろうけど)したのは、多分、私だけ。

結局「じゃあね」「ありがとうございました」、って普通に別れたんだけど(風丸さんには家にあったお父さんの傘を貸してあげた)。


もしかしなくても、私は主人公になりたいわけじゃないのかも。もちろん、ヒロインの座だって欲しくはない。
このどきどきは、恋じゃなくてきっとただの憧れ。……そうじゃなきゃ、雨の中近くに居た彼の人を意識しすぎてしまうから。


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夢…?っていうか、夢小説で地の文一人称ってありなんですかね。

というかこれ普通に♀宮坂(^O^)回避するために文中に宮坂入れたけど回避できてない

10:Nov:9th/top