リフレイン・イン・ザ・ワールド歴史は繰り返される。

そう言ったのは誰だったか。ジャンルカ・ザナルディはふと気になり、宿舎にある小さな図書館に立ち寄る。彼のチームメイトには彼の他に読書に勤しむような人はいなかったが、だからこそそこは彼の気に入っているスペースであり、落ち着ける空間でもあった。
埃っぽい館内の奥の方に百科事典を見つけ、項をくくる。しかし、それに知りたいことは載っておらずジャンルカは人知れず小さく溜め息をつく。元来気になったことはとことん突き詰めたい質であるのだ。だがよくよく考えてみるとかの名言に決まった出典は無かったような気もしてきた。とにかく、これ以上探すのは無駄だと悟り館内を後にしよう、と、した。

「あれー?ジャンルカ!」

手前の本棚から赤い巻き毛のチームメイトが顔を出す。ジャンルカからしてみれば文学にまるで縁の無さそうな彼がなぜこのような場所に居るのか理解できない。

「マルコ……何してるんだ?」

歩み寄りながら問いかけるジャンルカにマルコは手にとった本を見せるように振る。

「サッカー……入、門」
「そ!探してたんだよね」

本のタイトルを読み、ジャンルカはますます理解できないという思いを深めた。もしかしたら顔にも不可解さが浮かび出ていたかもしれない。だいたい、このチームメイトは今更サッカー入門して何をするつもりなのか。
ジャンルカの怪訝な表情を読みとったのか、それとも単に話したかっただけなのかは分からないが(恐らく後者だろう)マルコはジャンルカの疑問を解決へと誘った。

「近所の子供達がさ、サッカー教えて、って言うから…」

「へぇ」

「俺、あんまり人に教えたりとか得意じゃないから、指南書!」

マルコは、ずいっ、と本をジャンルカの鼻先に持っていく。それを軽くあしらってからジャンルカは入り口近くのカウンターの下からノートを取り出した。

「何、それ?」

聞きながら覗き込んできたマルコに、ジャンルカはまた呆れたような表情をする。溜め息をひとつ溢したあとの、これらは本を借りる際に必要な物だというジャンルカの説明をマルコは妙に真剣に聞いていた。

「ほら、借りるんだろ?」

「ジャンルカは?」

「いや、俺は特に…」

「え、じゃあわざわざ俺のためにノート出してくれたんだ…?」

あぁ、とジャンルカは事も無げに軽く頷く。それから、たわいもない言葉を二言三言交わした。



美しい桜の木の下には死体が埋まっている。

日本ではそんな風に言われることがあるらしいということを知り、出展が気になったジャンルカは二日ぶりに図書館へと足を進める。元来インターネット当で調べるよりも紙媒体の方が好きなたちなのだ。
図書館で辞典を繰るが、目当ての情報は手に入らなかった。こんなことならジャパンのチームに知り合いでも作っておくべきだったか、とジャンルカは思考を巡らせながら軽く嘆息する。
ちら、と赤毛が手前の書棚から見えた。チームメイトに赤毛は一人しか居ないし、宿舎で見受けるスタッフにも赤毛で且つ巻き毛な人は居なかったはず、つまりはまたあいつか――呆れたように額に手をつくジャンルカを他所に赤毛は、ぴくり、とこちらの気配を感じ取ったようだった。

「ジャンルカ!また会ったね!!」

顔を覗かせたマルコは書棚から一冊の本を抜き取ってからジャンルカの元へと駆け寄ってきた。それを軽く制し、ジャンルカはしたり顔のマルコに尋ねる。

「…マルコ…、今日は何探してたんだ」

「ん?あぁ、えっと…、ジャンルカに会えるかと思ってさ。しいていえば、探してたのはジャンルカ、かな」

は?、というジャンルカの小さな呟きは風にかき消された。ニコニコと笑みを浮かび続けるマルコの手に持つ本を見ると、それには「今だから流行る!ラグビーの歴史とルール」、と書かれていた。…本当にこいつはよく分からない、とジャンルカは何度目とも分からないため息をついた。


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傍ら様に提出。

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