keep/abnormal豪風。
10年後くらい設定。



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カーテンが開けられる音がして、同時に朝日が寝室に差し込む。夏も終わりに差し掛かったこの時期はこころなしか太陽の光が強い気がする。その光を体に浴びてからまだ眠ろうとする重い瞼を上げた。
思った通り、隣に寝ていたはずの豪炎寺が窓の横に立っている。いっしょに過ごすのは久しぶりなのだからもうすこしくらい暖かさを感じていたかった、と文句を言っても無駄なのは分かっている。学生時代から朝は早いやつだった。

「おはよう、風丸」
「あぁ。おはよう」

俺は欲求に従い、開けた目をまた閉じる。起きないのか、という豪炎寺の声は無視。どうせ俺も豪炎寺も今日は休みだ。二度寝くらい、非難される謂れはないだろう。
そう思い、眩しい太陽とは反対に体を向ける。すると、珍しいことに豪炎寺が布団の中に入ってくる。見えはしないが、衣擦れの音がそれを示していた。というか、さっき見た豪炎寺は既に寝着じゃなかった気が……。

「また寝るのか?」
「いや。出来るだけ風丸の近くに居たいからな」

な、何こっぱずかしいことを言っているんだ、こいつは。よくしゃあしゃあとそんなセリフを吐けるものだ。しかし、それにときめいてしまう俺が居るのも確か。
目を開けると、豪炎寺は思ったよりも近くに居て、そのことが心臓の動きを加速させる。俺が何も言わないことをどう取ったのか、俺の背中に手を回し抱き締めるような体制をとってきた。あ、

「お前、やっぱりそれよそ行きの服じゃないか!皺になるぞ」
「そんな高いものじゃないから、構わないさ」

嘘つけ。そのブランドのシャツが安いわけない。それとも豪炎寺の給料はそんなに高いのか…。やっぱり医者は普通とは違うのか。

俺と豪炎寺が付き合いだしたのは高1の時で、その時は同じ学校だったこともあり毎日のようにいっしょにいた。
大学の時だって、研修とか以外ではお互いに出来るだけ暇を作って、週に一回は会うようにした。
社会人になった今。正直、月1で会うのさえやっとだ。俺は別にそこまで忙しいわけではないただの会社員だが、医者はなかなかに自由がきかないらしい。
豪炎寺と会うのは一月ぶり、豪炎寺の家に来るのは二月ぶり、豪炎寺とまる一日いっしょに居られるのなんてどれだけ久しぶりか思い出せないほどだ。

寂しくない、なんて言ったら嘘になるけれど、我慢できる。だって、大人なんだから。


「眠いのか?」
「いや、起き上がるのが面倒なだけだよ。せっかくの休みなんだし。ゆっくりしようぜ」

はは、と豪炎寺は小さく笑った。苦笑いのような笑い方を、最近の豪炎寺はよくするが、仏頂面だった中学時代よりはマシかもしれない。
そして数秒の沈黙の後、豪炎寺が急に神妙な顔をする。嫌な予感、最悪な、予感。こういう時はろくなことが無いのを、俺は経験から知っていた。

「ご、豪炎寺?」

「あのさ、風丸……」

息を吐き、一言。

「ベルギーに行かないか?」

……は?
ちょっと待て、なぜ急にベルギーなんだ。旅行のつもりか?いや、そうだとしても今はそんな長期休暇をとってる余裕はない。
「ど、どういう…?」
「医学留学に行くことになった、三年ほど」

なんで決まる前に教えてくれなかったんだ、と言いそうになる口をつぐむ。中学生とは違うのだから、わざわざ相談なんてしなくてもいいのだ。

「風丸もいっしょに来ないか?留学って言っても、給与はきちんと出るから生活は保障する」
「そんな、急に」
「それに、ベルギーだったら」

結婚できるじゃないか。そう言った豪炎寺に、俺は何かが覚めるのを感じた。

「行かない」
「風丸……」
「そういうのが欲しかったわけじゃないんだ。小さな幸せで満足してたんだ、だから、やめてくれ」

自分で泣きそうな顔をしているのがよく分かる。別に別れ話をしている訳ではないのに、心の底に堆積していた悲しみが浮かび上がってくるように感じる。まだ背中に回されていた豪炎寺の手をゆっくりと外す。豪炎寺は何も言わずうつむいたままだ。あいつだって大人なんだから、自分のエゴでしかないと理解しているはずだ。

「ありがとう、豪炎寺」
「……っ。」
「幸せだったよ」

上手く笑えた自信がない。どころか頬には悲しみがつたい、落ちていく。



ぎゅ、と今度は俺から豪炎寺を抱きしめた。

崩壊は小さなきっかけだったのです。

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コンセプトは「大人」
柚木は大人ではないから上手く表現出来たかわからないですが。
これで二人が別れるかはわかりません。でも、豪炎寺はベルギーに行っちゃうからさらに合う暇がなくなります。自然消滅かもね。


「ベルギーで可愛い嫁さんでも作ってこいよ」ってセリフを入れようとしてやめました。


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