さてどうしようか、ととりあえず風丸の部屋に戻った二人はベッドに腰かけつつ悩んでいる。普段はサッカーサッカー、またサッカー。デート、という名の二人でのお出掛けの際もサッカー観戦やスポーツショップ巡りで、サッカー関連でない事を二人でするのは久しぶりだ。
といっても端からみて真剣に考えているのは風丸だけのようだった。円堂は風丸と居られたらそれで幸せなのだ。言い出しっぺは円堂なんだからちゃんと考えろ、などと言うのは無駄だと風丸はとうの昔に悟っている。

「とりあえず、外には出たくないんだよ」

「なるほど」

「で、できれば部屋からも出たくない」

「なるほどなるほど」

「ついでに言えば、何もしたくない」

「えー…」

「なんでそこは文句言うんだよ…」

風丸は日頃の疲れを癒したかっただけなのだが、それに円堂は苦言を提す。確かに二人で居られるだけで幸せだが、満足ではないらしい。意外に円堂は面倒な奴だ、それを知っているのはイナズマジャパンの中ではおそらく風丸だけであろう。

「風丸は何かしたいことないのか?」

「え、……一人になりたい」

「酷いっ!」

半ば本気で呟いた風丸に円堂は衝撃を受けたが、これも二人の仲が親密だからこそできるやりとりだ。泣き真似をする円堂の頭を仕方ないというように風丸は軽く撫でた。
そのまま円堂は風丸の腰のあたりに腕を回し甘えるように頭を押し付ける。小さくため息をついてから、風丸は流れるままにベッドに倒れこんだ。

「…オッケーってこと?」

風丸の上に乗った状態で上半身だけ起き上がった円堂がなぜか神妙な面持ちで尋ねる。「馬鹿言え」、と風丸は円堂の頭をコツンと叩きその問いを一蹴した。

「えー…」

「いじけるなよ…疲れてるって言ってるだろ」

でもぉ、とぐちぐち続ける円堂をじと目で見てから風丸は起き上がった。

「…じゃあ譲歩して、」

「譲歩して…?」

「俺は寝る、から、おさわりまでならオッケー」

考えることを放棄したのか、投げやりに提案してから円堂をどかしベッドに伏せる。さすがに直ぐには寝れずにごろごろと寝返りをうつ姿を円堂は悲しそうに見ていた。

「風丸…」

「寝てます」

「起きてるじゃん!」

バンバン、と抗議するようにベッドの端を叩くが風丸は意見を変えるつもりが皆無なため円堂の必死の訴えも総スルーだ。うー…、と唸ったあと円堂はハッと何かを思い付いたようで慌てて部屋を出ていった。



戻ってきた時には既に風丸は爆睡していたが、そんなことなどお構い無しというように円堂はベッドに上がり、うつ伏せに寝ていた風丸を仰向けにする。

いつも息苦しそうにしているのにどうしてわざわざうつ伏せで寝るのか、円堂はかつて風丸にそう尋ねた事があった。どんな会話の流れでそう聞いたのかは覚えていないが、それは円堂の中では長らく謎であったのだ。
何でそんな事を、と嫌そうな顔をしながらしぶしぶ風丸が言った答えは、“寝顔を見られるのが嫌だから“ だった。
よくよく考えると、円堂は風丸の寝顔を見たことがなかった。同じ部屋で寝たことは何度もあったが、うつ伏せうんぬんを抜きにしてもいつも円堂の方が先に寝て後に起きていたのだ。

さて、今初めて円堂は風丸の寝顔を目にしている。中2男子の寝顔なので、天使のような、とはもちろん言えない。しかし、円堂の心の中では言いも知れない不思議な高揚感が渦巻いていた。ばくばくと鳴る心音があまりにも大きく円堂は風丸が起きてしまうのではないかと心配になるほどであった。
とにかく早く、円堂は焦る手つきで自室から取ってきたデジカメの電源を入れる。ピントを合わせる、そして、

パシャ、という音の代わりに、パシン、ガッ、っという音が静かな室内に響いた。
解説すると、パシン、が風丸が円堂の手を払う音で、ガッ、が床にデジカメが落ちる音だ。


「か、風丸…」

「何するのかとわくわくしてたのに…。まさか写真撮影とは…何というか」

「起きてたのか」

「起きてた。場合によっては寝たふりを続けてあげてもよかったんだけどなー」

髪をくるくりと弄りながらじと目で睨み付ける風丸に、円堂は完全にすくんでいる。それでも風丸に馬乗りになった体制のままで降りようとしないのはさすがと言うべきか。

「その…やっぱり、嫌なのか、寝顔見られるのは」

「嫌だよ、最悪。写真なんてもっと最悪」

「俺、見ちゃったけど…」

円堂は申し訳なさそうに目を伏せる。その様子を見て、風丸は照れたように顔を背けて言った。

「別に、円堂に見られるのはそこまで嫌じゃないよ」

「か、風丸…!」

感極まって抱きつこうとしてきた円堂を両手で退けながら、風丸は諦めたように言った。

「というか、まあ、今さら円堂に見られて恥ずかしいものなんて何もないさ」


11:Nov:4th/top