キスまで、というのが俺達の暗黙のルールだった。
それだけでも十分背徳的で恍惚な感覚を味わえたし、正直言うとそれ以上の一線を越えるのは恐ろしかったのだ。
好き合ってるとはいえ同性。しかも中学生。俺の方はそれで満足していた。…とは、言いきれないけれど。

いつものように円堂の家でごろごろしているといつのまにか良い感じの雰囲気になる。こればっかりはよくわからないのだが、お互いがお互いを好きでたまらないという感覚が部屋いっぱいに充満して堪らない陶酔感を得られるのだ。
ふたりでベッドに腰掛け手を握りあう。顔を近づけ、唇が触れる直前に円堂が待ったをかけた。

「目は閉じないでくれ」

「なんで?いつも閉じてるじゃないか」

「えっと…、な、なんででも!」

「やだよ、恥ずかしいから無理」

俺が突っぱねると円堂はしょぼん、と顔を下げた。よくわからないがどうしても俺に目を開けてほしいらしい。
仕方がないので理由を聞くと、俊巡ののちに観念したように言った。

「眼球が第三の性感帯、って聞いて…舐めたらどんな反応するかな、って……」

「…は、はぁ!?」

呆れて物も言えない。円堂は変なところでマニアックな気があったが、まさかそんなことまでやろうとするとは理解できるはずがなかった。

「やだやだやだ!無理だからな!?」

「なんで!?」

何でも何もあるものか、目薬すら恐ろしいのに他人の舌を眼球にふれさせるなんて正気の沙汰ではない。必死に拒絶する、が、円堂は聞く耳をもたない。ベッドに膝をつき俺の腕を掴んでくる。

「おい、マジでやめろよ」

「いいじゃん!減るもんじゃないし」
必死で抵抗するがゴールキーパーの腕の力は半端ない。あっさりと良腕を固定され、俺の眼球が晒される。目を閉じても無理やりこじ開けられるのは分かりきっていたので観念…するように見せかけて、円堂が体制を保つために右手を離した瞬間に拘束を抜け出した。

「ああ〜っ」

「ああ〜っ、じゃない!暴行罪だぞ、暴行罪」

「…ケチ。」

「お前な…自分だって眼球舐められるなんてやだろ?」

俺が言うと、円堂は顎に手をあて考える素振りをした。それから、目をきらきら輝かせて再度俺に詰め寄る。

「いいぜ!舐めても」

「…はあ?」

本当、円堂は訳がわからない。思考回路が謎過ぎて理解不能だ。
だが、その理解不能は否応なしに俺の目の前に存在していた。

「舐めて!」

「やだよ」

「じゃあ舐めさせて!」

「やだって」

根性と諦めの悪さだけは認めよう。
どうやら舐めるか舐められるかしないとどうにもならないらしい。よし、俺も男だ。恋人のたっての願いじゃないか。それくらい聞いてやらないでどうする。

「…いい、ぜ」

「どっち!?」

「舐めて、も」

答えた瞬間円堂の顔が俺の顔に近づく。その唇は俺の眼球を真っ直ぐに狙っている。怖い。怖い。怖い。怖い。だが、目を閉じる間すらなかった。

「………っ…」

一瞬の間を置いて、俺ははあはあ、と荒い呼吸を繰り返す。離れていく円堂の顔をぼんやりと見ながら、どっと疲れが出たのを感じた。ただ座っていただけなのに、なんてことだ。精神力を鍛えることが必要かもしれない。
そんな俺に対し、円堂はやたらとにこにこしていた。人の眼球舐めるのがそんなに楽しかったのか。なんだか恨めしくなってくる。

「なあ、気持ちよかった?」

そういうのはもっと違うことをした後に言ってくれないか、と思ったが円堂の純粋な瞳を見るとそんなことはどうでもよくなった。正しくは、全て諦めの境地に入った。
円堂と付き合うというのはきっとこういう事なのだろう。

「……ああ、気持ちよかった」

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