お日さま園のご飯時は騒がしい。
50人を超える子供達が一度に食事をするのは困難なため、前半と後半に分けるのだが、育ち盛り食べ盛りの子供が空腹をやすやすと我慢するわけがない。
結局、ダイニングには前半の子供も後半の子供も集まることとなり、騒がしいのに変わりはないのだった。


「ねえ、緑川」

周りの騒がしさには我関せず、の態度でもくもくと食事をとる緑川に椅子の後ろから基山が声をかける。手に取っていたスプーンを戻してから緑川は振り返った。

「なに、ヒロト。何もあげれないよ」

緑川の言葉に基山は違う違う、と苦笑しながら手を振った。

「どうせ後から同じもの食べられるし。それよりもさ、苺、残してるの?」

そう言って基山はデザートのショートケーキを指差した。確かに、半分ほど食べられたそれには苺が横にのけてあった。はたから見ると嫌いだから避けているようにも見える。

「ああ、好きだから取っておいてる、んだけど…」

ケーキをつつきながら緑川は笑って答えた。そろそろ中学生になるというのに子供のようなことをしているのを指摘され、少し恥ずかしかったのだ。
ふーん、とさして関心を示さないように基山は緑川がケーキを食べる姿を見ていたが、思い出したかのように急に話をしだした。

「でも緑川、好きなものは最初に食べた方がいいよ」

「なんで?」

緑川は一旦手を止め振り向いて疑問符を頭につけた。それに基山は淡々と答える。

「だって、幸せなことと良くないことって交互にくるじゃないか。だったら、先手を幸せなことで押さえた方が損をしない」

「…よく分かんない」

基山の話が理解できず、フォークをくわえた緑川がぼやく。それを聞いて基山が近くの紙とペンを掴み、簡単な図を書いた。白い玉と黒い玉が交互に書かれていて、それぞれ幸せなことと良くないことを表しているのだと基山は言った。
丁寧に紙をペンで指しながら基山は緑川に再度説明する。

「つまり、最低でも先に幸せなことを取れば、幸せなことと良くないことは同数。うまくいけば幸せなことを一つ多く体験できるでしょ」

ま、へりくつだけど、と頭のなかの自分理論に区切りをつける基山がその場を離れようとすりと、緑川がガシッと基山の肩を掴んだ。ちなみに緑川は椅子に膝立ちしていて、食事中のマナーとしては大変よろしくない。
いきなりのことに戸惑いながら基山は緑川の方へ向き直った。

「…えーと、何?」

「ヒロト、天才!そっか、そうだよな〜。よし、じゃあ俺明日から積極的に幸せなことを先にする!」

「…?」

まくしたてながら純真な目で見つめてくる緑川に基山は苦笑を浮かべた。なんだか嘘を教えてしまったようですこし後ろめたくもあった。

「ヒロトはすごいな。ほんと、」

「…そう、かな」

きらきらした瞳を絶やさない緑川に真正面から誉められると、なんだかまんざらでもない気分になってくる。基山は少し、幸せな気持ちになった。

「…でも、緑川だってすごいよ」

「……なんで?」

「緑川と居ると、なんだか幸せになれるんだ」




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