「なあ、風丸、本気か…?」

「本気の本気!なんなら一生住まわせてくれ」

「いや、それはさすがに…」

親とケンカをしたという風丸が学校帰りに豪炎寺とこのようなやりとりをした。有り体に言うと、帰りづらいから泊めてくれ、ということだ。幸か不幸か豪炎寺家は本日当直と定期検査の為、息子以外不在であった。
たが、友人どうしならなんら問題ないお泊まりイベントでも、風丸に好意を抱いている豪炎寺にとっては重大な問題である。そもそも、泊まるなら他にも円堂の家とか円堂の家とか有るだろう、そう豪炎寺は考えるのだが、風丸にとっては親に連絡される危険も気兼ねする必要もない豪炎寺の家は非常に都合がいいのだろう。

どうすることも出来ず押されぎみにとりあえず宿泊を承認した豪炎寺は帰りにスーパーに寄ることを提案した。正直豪炎寺ひとりであれば残り物でもレトルトでも構わないのだが、まがりなりにも客人が訪れるのであればきちんとしたおもてなしをすべき、というのが豪炎寺の信条である。
学校から豪炎寺の家までの道のりのちょうど中程にあるスーパーは日常の家事をこなすことの多い豪炎寺にとっては慣れた場所だ。しかし、一般的な男子中学生である風丸はスーパーが久しぶりらしく食品売り場を物珍しそうに見渡していた。

「何か食べたいものとかあるか?」

「え、うーん…なんでも」

「なんでも、って…」

「豪炎寺の得意な…楽なものでいいよ。よく考えたら豪炎寺が作ってくれるんだよな…迷惑かけた、な。」

「ごめん」、とすまなさそうに言う風丸に豪炎寺は「別に、構わない」とだけ短く答える。それから風丸が喜びそうな料理について思案した。その時ちょうどキャベツの広告が目に入る。前に作った際夕香に評判がよかったことを思いだし、それを一玉手に取った。

「キャベツ…?サラダでもつくるのか?」

「楽しみにしてろ」

真剣にキャベツを選ぶ豪炎寺を不思議そうに見ながら独り言の様に呟いた風丸の言葉に軽く返事をし、よさそうな物を決め風丸のもつかごに入れる。それから食品売り場を一周して食材を選んでいく。豪炎寺のすることなすこと珍しいのか風丸は終始きょとんとしていた。
会計を済まし二つに分けた袋を一つずつもつ。急な買い物だったため久々にレジ袋を買う羽目になってしまった豪炎寺だったが、たまには夕香以外とこうして買い物するのもいいものだ、とひとり悦に入っていた。

おじゃまします、と豪炎寺家に数度目の足を踏み入れた風丸をテーブルに座らせ、豪炎寺は台所に立つ。台所はダイニングに面した形になっているので時折風丸が「何か手伝えることはないか?」と遠慮がちに聞いてくる。だが残念ながら風丸の不器用さは周知の事実であった。味覚は間違っていないので鍋物くらいならできる。しかし逆に言うと鍋物ぐらいしかできないのだ。
本人もそれは理解しているが、真面目ゆえに何かしなくてはと思ってしまうのだろう。だが、風丸の不安をよそに、豪炎寺は好きな子に自分の料理を食べさせておいしいと言わせたい、という女子高生のような信念に燃えていたのだった。


11:Aug:13th/top