「豪炎寺…俺、お前のこと、ずっとすきだったんだ」

そう言う風丸の顔は真っ赤で、知ってた、なんてちゃかして言うことは出来なかった。多分、気づいていなかっただけで俺もいつの間にか風丸の事が好きになっていたんだと思う。そうじゃなけりゃ、この心臓がバクバク鳴る音の説明がつかないだろう。
よって、答えは一択だ。

「もしよかったら、付き合ってくれないか?」

「…ああ、いいぞ」

途端にうつむき加減だった頭をあげ、驚いたような顔をしてからぱあぁっと満面の笑みを浮かべた。その笑顔を見た瞬間、堪らなく幸せな気持ちになれた。それまであった同性で付き合うことへの戸惑いや穿つ心は何処かヘ行き、この先への希望だけが胸を占めた。


付き合うとなると、風丸は一歩引いた態度で俺に接し、まるで女がするみたいに振る舞った。それには何処か違和感があり、俺がやめてくれ、と言うとすぐ元のような気兼ねない態度に戻った。やはり無理をして恋人、を演じていたらしい。

「だって、豪炎寺はホモじゃないだろ?」

理由を聞くと風丸は的はずれな答えを述べた。いや、もちろんホモでは断じてないのだが。俺の不思議そうな顔を見てとったのか、風丸は続けて話した。

「ほら、やっぱり恋人が男だと、嫌だろ?」

苦笑する風丸は、俺の本心をまったくわかっていないようだった。あまり喋らない自分にも責任は有るだろうが、なんというか、鈍すぎる。俺だって付き合う事を了承したんだ。どうして嫌だとか考えられるのだろうか。

「…嫌な訳ないだろ」

「え、」

「風丸が好きなんだ。男だからとか女だからとか、関係ない。お前だから好きなんだ」

嘘、と小さく呟いてから風丸は俺のカッターシャツを掴み胸に顔を押し当てた。そのまま数十秒、なかなか顔を上げないと思ったら、どうやら泣いているらしい。鼻をすする音が聞こえ、どうしたら良いか分からずにとりあえず風丸の背中をあやすようにたたいてみた。すると、一瞬俺の顔を見上げ、それから抱きつき今度は人目を憚らない大きな声で泣きはじめた。俺の自室なので他人に見られる可能性はないが、同い年の男が泣くのをまじまじと見たのははじめてで、何故だか少し面白かった。

「な、何笑ってるんだよ!」

俺が小さく笑うと、泣き腫らした目のまま怒ったように睨んできた。上手い言葉が思い付かなかったので、風丸の頭を撫でてから思い切り抱きしめかえす。

「豪炎寺、は、分かりにくいんだよ!」

堰を切ったように風丸は涙声で叫ぶ。

「告白した時だって、よくわかんない感じに神妙な顔してたし、あれじゃあ俺に気使ったのかな、とか考えるだろ!」

「…悪い、気持ちを言葉にするのは苦手で…」

風丸は手を離し、俺を突き飛ばす。尻餅をつく俺を笑う風丸はいつの間にか泣き止んでいた。
それから、しゃがんでベッドに手をついた俺に目線を合わせる。

「知ってる。豪炎寺が口下手なことくらい、みんな知ってる。」

しゃがんだまま数歩ずって風丸は顔を近づけてきた。そういえば、キスはおろか手を繋ぐといったことすら恋人らしい事は何もしてこなかったことに今さら気づいた。そうか、風丸はずっと俺の本心を気にしてたのか、そう気づくと同時に風丸の唇に俺の方からキスをした。

赤くなってあたふたと口元を押さえる風丸は少し経ってからやっと落ち着いたらしく、ベッドに腰かけて小さく微笑んだ。

「だから、さっき豪炎寺が好きってちゃんと言ってくれてすごく嬉しかったんだ」

「そうか…口下手なのは直せる気がしないが、それくらいならいくらでも言ってやるよ……好きだ」

いちいち真っ赤になる風丸の所作はやっぱり面白い。俺の本心の中で、笑いのツボだけは風丸に告げることは出来なそうだ。

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