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その日あたしは、ギリギリの時間で家を出た。

「ヤバい、遅れるー!」

バタバタとお気に入りのマフラーを巻きながら、学校までの道を駆けていく。今日はとても寒い。雪が降らなければいいけど。そんなことを考えながら、交差点の横断歩道に足を踏み入れる。急いでいたから、青信号が点滅しても構わなかった。今思えば、それがいけなかったんだ。キキー!いきなり激しいブレーキ音がしたと思ったら、左側から、トラックがこちらめがけて突っ込んできた。

「!!」

とたん、体に大きな衝撃が走り、視界が真っ暗になる。痛みなんて感じなかった。ただ、体中が熱かった。

「おい、大丈夫か!」
「だれか、救急車を!」

やけに遠くから、知らない人たちの声が聞こえる。あ…これダメなやつだ。あたし、死ぬかもな…。ぼんやりと考えていると、そのうち目を開けるのが億劫になってきて、目を閉じた。

******************

「これ。起きんか、小春」

ぺちぺちと、誰かに頬を叩かれる。

「んん…なんなの…?」

あたし、死んだんだからそっとしておいてよ…。思うのに、あんまりしつこくされるから、あたしはブチ切れた。

「ちょっと!いい加減にしてよ!」
「おお。起きた起きた」

そうして寝転がる形だった体を起こすと、目の前に、光があった。

「なにこれ、眩しい」

あたしは目を細めながら、それに向かって手を伸ばす。

「気安く触るでない、罰当りめ」
「しゃべった!?」

驚いて、手を引っ込めると、光はふよふよと空中を漂い、あたしの目の高さに合わせてきた。

「しゃべりもする。なぜならば、私は神だから」
「…、なに言ってんの?あんたが、神様?」

あたしは目を細めて、光をじっと見つめてみた。しかしあんまりにも輝きが強いので、その姿がうまく捉えられない。神様(仮)は、言った。

「信じるも信じないもお前の自由さ。私はそれを超えたところにいる。さて。小春。お前はこの度、交通事故で死んだわけだが…」
「…あたし、やっぱり死んだんだ」
「そうだな。この事故は、私にとっても不慮であった。予定では、お前はまだまだ生きられるはずだったが…。人間の運命とは、なかなか難しいものだ」
「運命…」

キュッと唇を噛んで、あたしは光を睨み付けた。自分が死んだと、何でもないことのように知らされたのがショックだった。頭の中をこれからの希望や夢、なんでもない日常のこと、そして家族や友達の親しい顔が駆け巡る。あたし、あたしは、さっきまで確かに生きていたのに。あたりまえにあった生が理不尽に奪われたのだと知って、正直、絶望した。それを、運命、なんて一言で表すなんて。

「そのような顔をするな。こういう場合にはな、きちんと救済処置がある。お前には、新しい運命を与えよう」
「……?、新しい、運命…?」

訝しんだ私のおでこに、神様(仮)は口づけた。

「小春に祝福を。お前には、どんな不運にも対抗しうる『幸運』の加護を授ける。それを使って、もう一度、人生を楽しんでおいで」
「!!??」

やがて神様の唇が離れた時、足にふわり浮遊感が訪れた。慌てて下を見てみると、足元は、一面の青空。

「では、頑張ってな」
「ちょ、待、きゃあーーーーーーー!!!」

そうして、私は落下した。

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