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襖を開けると、真冬という人は驚いたような表情でこちらを見た。制服のブレザーが珍しいのかな。足を出すのは恥ずかしいことみたいだし、びっくりさせちゃったかも。なにを言うべきかと迷っていると、彼女はすぐに表情を切り替えた。

「善宝寺さんにお着替えをお手伝いするように言われているのですが、中に入ってもよろしいでしょうか」
「別に、構わないけど」
「失礼します」

中に入って、慣れた様子で私に着物を着つけていく真冬さん。同じ年ぐらいに見えるけど、なんだかしっかりしているし、きっと私とは全然違うタイプの人なんだろう。とか、されるがまま着つけられて、まるで着せ替え人形にでもなった気分、とか。取りとめのないことをつらつら考えていると、真冬さんが淡々と口を開いた。

「慣れない環境でお困りでしょう」

シュルシュルと布が擦れる音がしている。

「私は普段くのいち教室におりますので、なにか困ったことがあれば、いらしてください。お力になれることもあると思います」
「…?」

表面上は、よくある気遣いの言葉だった。ちょっと義務的なかんじもする。でも、その中に私の知らない何かが含まれている気がして、首をかしげる。力になれるって、頼もしい言葉だしありがたいけど、初対面の人間相手にそんなに確信を持って言えるもの?不思議な感じがして首を傾げた私の肩を、真冬さんはぽんと優しく叩いた。

「はい、できましたよ」

この部屋には鏡がないみたいで、自分ではどんな感じになったか見られないのが残念だった。だけど、着物は青みを帯びたピンク色で、ブルべ春の私大勝利の色合いだ。着物は動きにくいイメージがあるけど、意外とそうでもないかも。

「くのいち教室の制服です」
「…くのいち?」
「女性の忍者のことです。ここは忍者の学校なので」
「忍者」

さっきもちらっと出たものの、くのいちって単語がピンときていない。それを察してくれた真冬さんが、補足をしてくれる。忍者。忍者なんて、漫画とか、親が見ていた時代劇の中でしか知らない。

「では、私はこれで」

混乱する私をよそに、真冬さんは私が着ていた制服をテキパキ畳んで重ねてくれた。そのまま出て行こうとするので、私は慌てて引き留める。

「どうかしましたか?」
「あ、いや、大したことじゃないんだけど」

ここに来てから、ずいぶんいろいろな人にお世話になっている。それなのに今まで、現実を受け止めることに精一杯で、なにかしてもらっても、ろくに感謝もしなかった。それを反省したから、周囲に甘えていた自分とさよならをしたいのだ。ここにいる人たちは私の家族でも親戚でもないただの他人で、何の責任も持ってない。その上で、わざわざ親切にしてくれる。優しい人たちだ。真冬さんもそのそのひとりだから、お礼を言わないと。

「…その、あ、ありがとう。助かった」

お礼を言いなれてなくて、どもったりして、みっともない言い方になってしまった…。あ〜私かっこ悪い。そう思って俯いてた顔をあげると、真冬さんが今までのビジネスライクな表情をぱっと変えて笑顔になったので、びっくりした。

「いえ、困ったときはお互い様ですよ」

真冬さんは出て行こうとして襖の所にいたのに、こちらへ戻ってきて、この手をぎゅっと握る。

「辛いでしょうけど、頑張って」
「うん」

それだけ言うと、真冬さんは爽やかに去って行った。握ってくれた手が、なんだかすごくほかほかしている。

(…なんか、頑張れそうかも)

気持ちが前向きになったら、がぜんやる気とか、好奇心が湧いてくる。せっかくここの着物着てるんだし、ちょっと外に出て探検してみようかな。

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