静まりかえった動物園の猿の檻の前で、ヨーコは困っていた。


(……荷物が一杯になってきてしまったわ……。)


目の前にはメダルが落ちているが、もう持てそうに無い。

動物園を脱出するために必要な物を手に入れるには、マスコットメダルを十二枚も集めなくてはならないのに。

既に五枚は集めて使用したとは言え、あと七枚も残っている。

それだと言うのにこれ以上はハーブの一つも持てそうに無い。
ナップサックの中も、既にマスコットメダルや弾薬で埋め尽くされている。
荷物の整理をしなくてはならなくなった。



色々と悩んだ結果、ヨーコは残弾が少なくなったハンドガンは置いていく事にする。


ポケットからハンドガンを取り出した時に、大切な御守りが滑り落ちてしまった事にヨーコは気が付かなかった。







この鬱陶しい動物園を抜けるには、獅子のエンブレムを二枚手に入れなくてはならないが、腹立たしい事にその為にはマスコットメダルを後七枚も集める必要がある。

園内のあちこちに散らばっているメダルを探し出す事から始めなければならない。


デビットとヨーコで協力すれば、集められない事は無いだろうが……。


この園内では、厄介な事に動物達がゾンビと化して徘徊している。
今の所確認しただけでも、ゾウ、ハイエナ、ライオン、ワニ、サイチョウがゾンビになっていた。

そんな中を、戦闘に不慣れなヨーコと共に小さなメダルを探し回らなくてはならないのだと思うと、頭が痛くなる。


だが、不思議とヨーコを見捨てようとはデビットは思えない。

モタモタしているが一生懸命にデビットの役に立とうと必死についてくるヨーコを、デビットは気が付けば何かと気遣う様になっていた。


……今までデビットが気遣う人間など、マーク位しか居なかったというのに。


猿の檻の前で、ヨーコがマスコットメダルと交換にハンドガンを捨てたその時に、ヨーコのポケットから何かが落ちたのを、デビットは見逃さなかった。


ヨーコはそれに気が付いていないのか、先に搬入路の方へと進んで行ってしまう。



(……何だ?)



デビットがヨーコの落とし物を拾い上げると、それは彼女が大切にしていた御守りだった。



(……後で渡しといてやろう…。)



そう思って、デビットはヨーコの御守りを落とさない様にツナギのポケットの中に入れておく。




『……助けてっ!デビットっ……!』

その時、ヨーコが切羽詰まったかの様にデビットを呼んだ。


「ヨーコっ!」


デビットが内心焦りながら搬入路の扉を開けると、一頭のメスライオンがヨーコに襲い掛かかっていた。


ヨーコは辛うじてメスライオンの攻撃を避けているが、そう何時までも続くものではない、現にヨーコは路の端へと追い詰められている。



「デビット……っ!助けてっ、……お願い…っ!」



必死に自分に助けを求めるヨーコに飛び掛かろうとするメスライオンに、デビットは激しく燃え盛る焔の様な怒りを感じた。


その怒りのままに、デビットはショットガンを構えてメスライオンに向けて引き金を引く。
散弾に身を抉られる度にメスライオンは身悶えし、終には動かなくなった。



「ヨーコ……無事か?」

「デビットっ………助けてくれたのね…ありがとう…。」

余程恐かったのだろう。
ヨーコは目に薄く涙を浮かべながら、デビット礼を言った。







植え込みの中にメダルを見つけ、ヨーコがそれを手に取るなり、何処からかメスライオンが襲い掛かってきた。

ヨーコは辛うじてそれを避けたが、武器と言える物を何も持たないヨーコではそう長くは保たない。


「助けて…!……助けてっ!デビットっ……!」


ヨーコは咄嗟にデビットに助けを求めた。
直ぐ様デビットは駆け付けて、メスライオンを倒してくれる。



助けてもらって嬉しい反面、デビットの足を引っ張ってしまっている様で、ヨーコは申し訳ない気持ちを抱く。



(また…だわ……。…私はデビットに頼ってばかり…。これじゃ駄目だって分かってるのに。)



ラクーンシティを逃げ回る中で偶々出会っただけの、本当にただそれだけの相手であるデビットに、ヨーコは助けてもらってばかりだった。
いつも助けてくれるデビットの優しさに甘えてばかりだ。




デビットの役に立ちたい。
護ってもらうばかりではなく、デビットの横で、彼の役に立ちたい。




そう思っていても、ヨーコはデビットに迷惑ばかりかけている……気がする…。

せめて自分に出来る精一杯の事を…、そう思って行動しても、デビットに助けてもらってばかりいる。


どう考えても、ヨーコはデビットにとって、足手纏いにしかなっていない。



(……私は……。)



胸に疼く痛みを消す術を、ヨーコはまだ知らなかった。


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