『幸せとは何か?』

それはとても難しい質問だと思う。
きっと答えは人各々で、そのどれもが正解なんだろう。

では、私の幸せとは?

…それはきっと、愛する人と過ごせる日々その物だ。

…大切な愛する人に寄り添い、愛し愛されて何気無い日々を過ごす。
私には、それこそが何にも代えがたい幸せなのだ。

……だって私は、そういった日々の尊さと儚さを嫌と言うほど知っているのだから。


あの街で、私は多くの物を喪った。
その内の幾つかはまた取り戻せているが、もう二度とこの手に戻って来る事は無い物も沢山ある。
あの地獄の中で、私は沢山傷付き、幾度も嘆いた。

それでも生きる事を諦めずに前に進み続ける事が出来たのは、絶望に足を止めそうになる度に何度だって私の手を力強く引いてくれた手があったからだ。


あの地獄から生還してなお、時折まだ自分があの街の中にいる様な錯覚を覚える。

この幸せな日々全ては私が見ている夢で、現実ではまだ私はあの街をさ迷っているのではないか、と。
あの街でデビットに………私の最愛の人に出会えた事すら夢で、現実の私はあの街に独り取り残されているのではないか、と。

訳も無く、不意に不安になるのだ。
まるで、心の一部はあの街をまださ迷っているかの様に。
この現実は、本当の現実に絶望した私の願望が見せている夢なのではないか、と。
夢から醒めてしまえば、デビットの姿は何処にも無いのではないか、跡形も無く消えてしまうのでは、と。


だが。
私がそんな不安に苛まれていると、デビットはいつも私を抱き締めてくれるのだ。
何も言わずに優しく、だが決して離さぬ様に………まるで私を自分に繋ぎ止めようとするかの様に。

デビットに抱き締められる度に、彼の温もりを感じる度に、少しずつ私の心の何処かに空いてしまった穴が優しい何かに埋められていく。


…………それでもきっと、その穴が完全に塞がる事はない。
私の心の何処かは、きっとあの街に取り残されてしまったままなのだ。
だから無くしてしまった心を思い出す様に、何度だってあの街を思い出してしまうのだろう。
その度に、不安に苛まれてしまうのだろう。


だが、それでもいいのだ。


繋いだ手の温もりが、抱き締めてくれる優しさが、互いを確かめあう様に交わした口付けが。
確かに私がここにいるのだという事を、ここは夢なんかでは無いのだと教えてくれる。
デビットの温もりが、私を『過去』という悪夢ではなく『今』という現実に繋ぎ止めてくれる。


雪の様に降り積もる幸せが、全てを優しく覆い包んでいってくれるのだから。


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