パチパチと何かがはぜる音が聞こえ……。 頬に温かい……いや、むしろ熱い程の風を感じる。 「うっ……。けほっ!」 周りが煙たくて、喉が痛い。 思わず咳き込んでしまう。 そして身体が痛い。 固いアスファルトで舗装された道路などに寝ているからだ。 何故、道路に寝ているのだ? ここは何処なのだろう? 身体を起こし、煙たさに自然と涙目になる目を軽く擦って周りを見ると、そこは凄惨極まりない煉獄だった。 焔が建物を、人を、舐める様に呑み込み燃え盛っている。 幾十、幾百もの人が倒れていた。 深度3どころか4以上つまりは炭化し始め筋肉が真っ黒に凝塊し独特のファイティング・ポジションをとっている遺体(どう考えても生きてはいない)や、腕の筋肉が靭帯や腱ごと焼失しているものもある。 トルソーと呼ばれる、腕が焼失した死体も転がっている。 顔面を形作る頭蓋骨が崩壊して生前の面持ちなどとうに喪われた、物言わぬ骸がただただ広がっていた。 さしもの光景に結衣は一瞬言葉を喪い愕然とする。 酷い有り様だ。 ここまでのものは日本に限らずそうそう見られない。 何があったのだ? ……分からない。 突如ここにいた結衣は、何があったのか、決定的な瞬間を見ていない。 ここは危険だ。 早く逃げなくては、自分もここに転がっている人達の様に炎か煙にまかれてしんでしまう。 ましてや原因不明の大火災だ。 どんな有毒な物質が辺りに撒き散らされているのか分からない。 だが、原因が何であれ、この大災害とよんでも支障は無い様な事態を前に只座して傍観して逃げる事は、結衣には出来なかった。 正体不明の有毒な気体が発生している可能性を考えて、口元に何時もポケットに入れているハンカチを取り出してあてる。 屋外だから有毒ガスの濃度は低いだろうが、姿勢を出来るだけ低くしながら結衣は辺りを探した。 手遅れな者は兎も角、深度2の負傷者なら助けられるかもしれない。 と、言ってもここには救急車すらおらず、何の医療器具も持っていない結衣に出来る事などたかが知れているが。 それでも生存者を炎に巻かれない場所まで連れていく事位なら出来る筈だ。 その後の事は、救急医療従事者に任せよう。 この時はまだ結衣はそう思えた。 |