春竜達はゾンビ達の猛攻を掻い潜り、人気の無い通りに辿り着いた。 まだ油断は出来ないが、一先ずゾンビの姿は見えない。 春竜は少し立ち止まって辺りを見回した。 既に日が暮れて、辺りには街灯が灯り始めている。 どうやら有り難い事に、まだ電気の供給は止まってはいないらしい。 通りの向こうに何やら大きな看板が目立つ明かりの付いた『レストランエレファント』なる建物が見えるが、春竜の気を惹いたのは、目の前にそびえたつ大きなゲートの方だった。 (何だ?ラクーン動物園?………?) ゲートの上部には、デカデカとデフォルメされた文字が踊っている。 中々豪勢なゲートだが、今は固く閉ざされ、春竜達の侵入を拒んでいた。 入れない場所を気にしてもしょうがない。 取り敢えずは、明かりがついている『レストラン エレファント』に行くしか無い様だ。 『あら、これは………。……避難勧告……?』 レストラン前の掲示板にシンディが気になる掲示物を見付けた様で、彼女は足を止めた。 『シンディ、どうかしたの?』 部長と春竜も、シンディが見ている掲示物を覗きこむ。 それは《ラクーン市警》からの避難勧告であった。 『皆、これを見て!もしかしたらこれで脱出出来るかもしれないわ!』 シンディの言葉に、皆がそれに注目する。 『えーっと……。 トラムターミナルに数時間置きに救助ヘリが来ます……、ね。』 部長は春竜に振り返った。 「ハル、どう思う?行った方がいいのかしら?」 ………どうなのだろう。 その救助ヘリで本当に脱出出来るのか………春竜には保証出来ない。 だがゲームのストーリー上では、殆どの市民が犠牲になったとは言っても、この街から生還出来た市民はゼロでは無かった筈だ。 確か………最終的にヘリで街から脱出したキャラもいた筈………。 だが、それが誰なのかは分からない。 うろ覚えの知識しか、今の春竜には思い出せなかった。 ……………ラクーンシティを舞台にしたゲームは未プレイだった事を後悔する日が来ようとは………。 「……あまりいい予感はしませんね……。 ですが、確か最終的にはヘリでこの街から脱出出来たはずです。 ……問題はそれが何時で何処なのか、ですが……。 済みません部長。あまり覚えていないです。」 すると部長は笑って首を横に振る。 「まぁ、気にしないでいいわよ。 脱出する方法があるって分かるだけで充分だもの。」 『トラムターミナル……か。 ここから行くならば路面電車に乗らなければな。 路面電車ならここを抜けた先だが……。』 ジョージは《ラクーン動物園》のゲートを見やった。 その顔には憂慮が浮かんでいる。 『あれって……動物園…よね。嫌な予感しかしないわ。』 アリッサが呟いたのは、この場にいる殆どの人間が思っている事だ。 街中がこの有り様なのだ。 動物園だけはあの惨状から逃れられた等とは到底思えない。 動物達も間違いなくゾンビと化しているだろう。 虎、ライオン、象、熊、カバ、サイ、ワニ…………。 何がゾンビと化して生存者達に襲い掛かってきても、何ら不思議では無い。 何の鳴き声も聴こえてこないのに、巨大な何かが息を殺して此方を見ているかの様な息苦しさすら、春竜は感じている。 (……絶対に………《何か》がいるな。) それが《何》であるのかは分からないが………。 恐らくただでは通れまい。 不気味な程に静まりかえった動物園のゲートを見上げて、春竜は心中で溜め息をこぼした。 『まっ、何かが出てくる気しかしないけど、此処で立ち往生してる余裕なんか無いわ。 トラムターミナルを目指してこの先に進むか、ゾンビだらけの道を引き返すか、二つに一つ。 私は、この先に進むべきだとは思うわ。 皆はどうしたいの?』 部長は春竜達に振り返った。 『……俺も、部長と同じく進むべきだと思います。』 『今の所、進む以外に道は無いわ。あたしは勿論進むわよ。』 『私も………引き返すよりは進んだ方がいいと思うわ。 救助が来るなら、急がないと。』 『脱出の手段がこの先にあるというなら、行くしか無い。』 『私も、皆と同意見だ。』 全員の意見が一致する。 『よしっ、じゃあ決まりね。 それじゃあ早いとこ入っちゃいましょ!』 部長はニコッと笑って動物園のゲートを指差した。 ところが。 「う〜ん。開かないわね……。」 ゲートを閉じている鎖には鍵がしっかりとかかっていて、開けられそうには無い。 月代ならばこの程度の鍵は素手でも破壊出来るだろうが、春竜には壊すのは無理だ。 だが、ナンバーロック式だから番号さえ分かれば開けられる。 または、鎖を切る道具があれば何とかなりそうだ。 しかしそうは言っても………この場にはそんな道具など無いし、暗証番号を知っている人もいない。 乗り越えるのは……春竜ならばいけるかもしれないが、マークは体型的に苦しいだろう。 (………どうしたものだろうか………。) ここがゲームの世界だというのなら………何処かに手掛かりがある筈だ。 この手のゲームのセオリーとしては、この辺りの何処かに先に進む為のカギがある。 春竜はそれに賭けるべきだと感じた。 「部長、この辺りをよく探しましょう。 きっと何か見付かる筈です。」 「それって、ゲーム的にって事?」 春竜が頷くと、部長は「成る程ね。」と一瞬考えた後。 『取り敢えずこのゲートを開ける方法を探しましょ。 どうするにせよ、此所で何時までも立ち止まっているわけにはいかないわ。』 部長は地区の案内板に書かれた地図を見た。 『と、言ってもね……。 この辺りで何かありそうなのってあのレストランと、裏路地位なもんよね…。 あっ、そうだ! 此所は二手に別れて探すのはどう? 私とハルが通信機を持ってるから何かあれば直ぐに連絡出来るし、そうした方が効率がいいんじゃないかしら? 私がレストラン、ハルが裏路地でどう?』 春竜は名案だと感じ、賛成した。 折角六人もいるのだ。 手分けする方が遥かに効率が良いのは間違いない。 部長の提案で、春竜とシンディとマーク、部長とアリッサとジョージの二手に別れた。 |