気持ち、悪い。
言葉で表せばその一言。目前の男共は気持ち悪い笑みを口元に張り付かせ、開いた口からは聞きたくない言葉を漏らし、俺は生理的な涙を抑える事は出来ないまま唇を噛み締めた。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い、
何故こうなったのか。思い返しても予想に反していて頭の整理がつかない。顔は以前利用した人間のものか、そんなうろ覚えの男数人が俺を組み敷いていて、ただどうしようもない嘔吐感が込み上げ、内蔵を突き上げられる感覚に喉が詰まる。
男が男を抱いて何が楽しいのだろうか、そんな言葉、最初の内は幾度となく吐いたが無為なものへと変わり空(くう)に消えた。
「はっ…ぁあ、く」
どんなに唇を噛み締めても奥を突かれては聞きたくない声が自分の口から漏れる。そうすれば今正に俺の中へと己のモノを挿れている男の笑みが含まった。
そしてまた中へと出される。
お腹が痛い。
もう何度受け入れた事か。
薄れる意識の中、ぼんやりと浮かぶ人物に、また涙が溢れた。
「………、ん…っ」
重たい瞼を無理矢理開ければ、最初に映ったのはビルとビルの隙間から見える夜の空。
身体を起こそうとしたら腰と下腹部に痛みが走り、俺は声にならない声を漏らした。吐き気がする。視線をさ迷わせれば男共の姿は見当たらず、もう飽きたのだろうと、頼りない吐息を吐く。
だが現実は嫌な程で見下ろした自分の身体は消えることない情事の色を残していて、また涙が出そうになった。
さっさと帰ろう、こんな場所からは一刻も早く離れたくて痛みを訴える身体を叱咤して立ち上がる。視線をさ迷わせれば数回程通ったことのある路地裏で、俺は服を簡単に着直すとコートのチャックを上迄上げて大通りに向かって踏み出した。
「……臨、也?」
「………っ!」
だけど、踏み出した瞬間、背後に響いた見知る言葉に俺は硬直する。
地についた足が全く動こうとしなくて、喉がカラカラと渇いた。嫌な汗がじんわりと滲み出て思考が停止する。
「臨也…、だよね?」
「…新羅」
振り返ったらやっぱりそこには予想していた人物がいて息を飲んだ。なんで、と胸が痛む。普段ならインドア派の彼ならば外出する事なんて少ないのに、何で今日のこの状況で出くわさなければならないのか。
新羅は俺のことをまじまじと見ながら眉根を寄せる。
ああ、気付かれてしまった
「一応、聞くけどさ…君、」
「新羅が思ってる通りだよ」
戸惑った様に視線をさ迷わせ、でも分かった様に言葉を紡いだそれを聞きたくなくて新羅がいう前に俺は肯定を言う。
分かってた癖に目を見開く新羅。
「じゃあ、やっぱり…」
「ああ、そうさ。前に恨みを買った奴らに尽く仕返しをされたってわけだ。組み敷かれて女でもないのに犯された、ホント、滑稽な話だよね」
「…臨也、」
「これで満足?君が予想してたのと合ってたかな?まあどっちでもいいけど。俺、帰るから、じゃあ」
「臨也!!」
新羅の顔を見たくなくて震えそうになる声を必死に正常にさせ、淡々てした言葉を返す。早く家に帰りたい、ホームシックではないけど今だけはそう思った。だから早々と話を切り捨て其の場を立ち去ろうとした瞬間、普段は聞くことのない新羅の怒鳴り声に思わず肩が跳ねる。
「………っ」
「俺は、別にそこまで言えとは言ってないよ。なんでそんなに強がるのさ。辛いなら…」
「…っそれこそ新羅には関係ないだろ!いいから俺に構うな!」
「ちょっと、待っ――」
同情なんて要らない、情けをかけられるなんて死んでも御免だ。ならば一人惨めを味わった方が未だ幾分かマシだ。自分でも無我夢中で、怒鳴る様な声を荒げ駆け出そうとした、だけどほぼ距離の近かった新羅の手が伸ばされ、自分の腕に触れた時
――その手を振り払った。
「……ッッ!――触る、な…っ」
やだ
やだ
やだ、
胸がドクドクと煩い。
振り払われた方の新羅も吃驚した様で目を見張ってて、自分でも無意識だった。
「いざや…、?」
「……触ったら、新羅も…汚れる、から…触る…な」
「…な、」
自分でも何を口走ってるのか分からなかった。ただ触れられたら新羅も汚してしまいそうで、それは嫌で、怖くて、震えた声で言葉を紡ぐ。
俯いてたから新羅の顔は見えない。それでも引き攣った声が聞こえた。きっと呆れてるのだろう、そう思った。
けど、次に顔を上げた時、俺の身体は地面に押し付けられていた。押し倒された時に打ち付けた背中がじんわりと痛んだけど、それよりも、新羅が自分に触れてる事実と押し倒されてる現状が脳を支配する。
目の前が真っ白になりそうで、
身体が震えそうで、
喉が引き攣った。
「……なにす、」
「どこが汚いの?僕は臨也が汚いなんて思わない」
「どこが…って全部に決まってんだろ!いいから退けよ!」
怖いなんて嘘だ、不自然な笑顔浮かべた新羅の表情や声や行動が怖いなんて。あいつらではないのに、
「…そっか、じゃあ汚くないって分からせてあげるよ」
優しいのに胸を張り付ける様な声が鼓膜を揺さ振った。それと同時に新羅の指先が喉元に這って、上までキッチリと閉めたコートのチャックを下ろして行く。
「ちょっ…やめ…っ!?」
「うるさい」
気のせいじゃなく錯覚でもなく、目の前の新羅を怖いと思った。だけど身体が思うように動かない、恐怖で動けないというのはこの事を言うのか。でも分かってた、新羅が怖いわけじゃなくて、染み込んだ男共の行為を思い返し怖いという感情が出てるのだと。
あの感覚が蘇り、吐き気がする。
新羅の手が裂けた服の合間から地肌に触れた瞬間、堪らず俺の目尻から涙が溢れた。
「…ーーっふ、く」
嗚咽が漏れる。生理的ではない涙。
止まらなくて止まらなくて、下唇を噛むも隙間から声が零れた。
「………やっと、泣いた」
今まで地肌に触れていた新羅の手がぴたりと止まって、不意に頬に生暖かい感触が伝わる。そして紡がれた言葉に目を見張った。
――なん、て言った?
「君は強情だから、こうまでしないと泣かないだろ。ずっと気を張り詰めてて」
「なっ…!おまえ、謀っ」
先程とは違う普段の声音で喋り頬を撫でる彼に安堵をするも吐かれた内容に違う意味で口が引き攣る。
信じられない信じられない!
つーか信じられるか!!
けど新羅は柔らかい笑みで未だに涙が零れる目尻に触れた。
「うん、ごめん。怖かったよね?だけど、あんなこと言われたら流石に黙っちゃいられないし。ここで泣かせなきゃ、臨也は一人で泣くでしょ?それはやだったから」
「…こんな泣かせ方、最悪だ」
「素直に泣けばしないってば。……ねえ、臨也」
完全に一本取られた状況に、怖さなど吹き飛んで眉根を寄せる。相変わらず浮かべる笑みに俄かに殺意が湧いた。
でも、頬に触れられる感覚に先刻の様な嫌悪感や気持ち悪さは浮かばない。
新羅が何処か寂しそうな笑顔を浮かべた。
「…私は絶対に臨也のこと、汚れてるなんて思わないし思う気もない。実際汚れてなんかないよ。だから君も自分を汚れるなんて思って欲しくない」「………」
「…ふう、分かったのかな?まあいま、腸が煮え繰り返りそうなのは事実なんだけどさ。…君を傷つけるのは静雄でさえ許せないのに…」
「…なんか言った?」
「ううん、なんも」
何だかシズちゃんの名前が出た様な気もしたけどいいだろう。馬鹿みたいだけど新羅の言葉で止まりかけていた涙がまた零れてくる。等々涙腺まで崩壊したか。
目の前の新羅を見上げ、ゆっくりと腕を伸ばし抱きしめるように背中に回したら、応えるように新羅も俺のことを少しだけ起こし抱きしめてきた。
あいつらとは違う、安心できる温もり、と匂い。
「…新羅のせいだから」
「うん」
「落ち着くまで胸貸せ」
「分かってるよ」
「…バカ」
頭を撫でる手が恨めしい。うそ、好きだ。未だ身体に残る嫌な感覚は吐き気がするけど、少しだけ忘れられる。俺の涙で白衣が濡れるのはせめてもの仕返しだ。
そんなことを思いながら、俺は新羅の腕の中で、バカみたいに泣いた。
ばか
ばか
ばか
あのとき、
頭に浮かんだのは、
―――――おまえのことだよ
(…新羅、)
(なんだい?)
(…ついでに消毒しろ)
(…ん、了解)
―――――――――
リクエスト有難うございました!
あ、れ…なんか違うよーな…
設定が活かせてないよーな…
そもそも慰めるまでの行程が酷い
最初は新羅ん家で〜…だったですが臨也をどう泣かせるか、考えてたら違う結果に…orz
しかも文章が死にました。
もう、これ違うじゃん!と思いましたらいつでもおっしゃって下さい!書き直します!
無駄に長くてすみませんでした;
100805
(残響、反覆して)