「シーズちゃーん!」
「……」

全身に悪寒が走った、様な気がした
飄々とした声音が背後に響く。
取り敢えず周りを確認した、

(…ッチ、投げる物がねえ)

路上のど真ん中とあってか、投げる物など、そう「人」以外は存在しない。
だが流石に人間、一般人を投げるのはあまりにも非常式だ。
いや、設置された看板や自販機を投げる時点で全然常識の範囲内ではないが。そんな事を言ってしまってはキリがない。


ドン、


刹那、
背中にナニかが当たった。
下を見れば自分の腰に巻き付いている袖まで黒いコートで包まれた、着衣の上からでも分かる細い腕。
お腹まで巻かれたその腕は、腹部で指を絡めさせ、巻き付いている。否、抱き着いている。

「……臨也くんよお…」
「なあに?シズちゃん」

加えていた煙草を指で挟み、口から離すと幾分か低い声で抱き着いてきた張本人の名前を言い捨てる。
数秒遅れた声は妙に甘ったるい。
いや甘ったる過ぎだ。

更に追い撃ちをかける様に、





酒臭い。

いや、臭い臭過ぎる。
背後にいるというのに鼻間近で嗅いでいる様な感じ。
だが空を見上げれば太陽は真上。
丁度、昼を回った時刻だろうか。

そんな真昼間の最中、背後から抱き着いている奴、折原臨也はお酒の匂いを周囲に漂わせていた。

「…酒、飲んだのか?」
「いやいやいーや、飲んでないよー」

嘘だろ。
それなら普段より数倍うざったい、その口調はなんだと言うのだ。
平和島静雄は珍しく普通の溜め息を吐くと何とか巻き付いている腕を解こうとする。
だが、その細腕からは想定出来ない程の強さで巻き付いており、中々解けない。
いや、静雄の力を持ってすれば絶やすく外せる程度なのだが。
此処まで強く巻き付かれると、外す力で腕を折ってしまいそうで、折ってしまおうかとも考えたが、止めた。

後々、面倒そうだ。

それに殺したり骨折させたりするなら、やはり正気の時のがいい。


取り敢えず、今どうすか、だ。


「じゃあ何、飲んだんだよ」

「んー…そうだなあ。ふふふ、何だろうねえ。気になる?気になっちゃう?あは、やだなあ、シズちゃんたらそんなに俺の事何でも知りたいぐらい好きとか?でも一応俺も情報屋だし、その情報を提供しない事もないよ?大マケにマケて2000円で手を打つよ!どう?払う?ねえーシズちゃーん」

「う、うぜえ…」普段の御託を喋喋と語り出す此奴も相当うざいが、そのうざさが10倍に増した様な、そんなうざさ。
ねちっこいと言うか酒臭いと言うか、声の調子がやたら甘ったるいと言うか…。

そう!そうだ!ネットに居る所謂ネカマやおかまバーにでもいそうな感じだ!
やたらとねちっこいのが証拠!


そんな事を心中で、かき巡らせていれば、不意に臨也が腰に巻き付かせていた腕を解き、一本後ろに下がる。
何事かと振り向こうとした瞬間。
ガシリ、と首を掴まれ強制的にそちらへと向かせられれば、視界に広がる臨也の顔。

言動と相応する、ねちっこいと言う形容詞が似合う笑みを張り付かせた顔は、真っ赤に染め上げられて、一目見るだけで酔っ払いだと分かってしまう、そんな表情。

三日月に歪めた口を開く。


「俺さー…今すっごく気分がいいんだよね。分かる?」

「分かるか分からねえか聞かれたら丸分かりだろーがよ」


近付けられた、顔。
アルコール臭い。


「あははッ、だから気分のいい俺はお裾分けしようと思ってたらシズちゃんに会った訳なんだけどさ」

「ああー…それは最悪な巡り会わせだな」


何を言いたいのか、
赤い瞳は奇妙に歪められた。


「…まあ、そういう訳」

「は?」

「だーかーらー、シズちゃんにお裾分けしてあげるって話」


疑問符を浮かべる俺にの口、
歪んだ笑みの臨也の唇が重なった。

池袋の大通り、
しかもお昼真っ盛り

あまりに非常識なその光景に、
他人事の様に俺の身体は停止した。


「はは、驚いた?それと…も―……」

「……ッ、て臨也!?は?おい!」


数秒後、離されれる口と口。
臨也は優越の様な笑みを口元に含ませて、何かを言いかけた瞬間、まるで糸が切れた操り人形の体の様に、急転降下。

地面へと崩れ落ちた。

停止していた静雄は、コンマ3秒反応が遅れて急に倒れた相手を、非常に残念な事に抱き起こす形になりながら上半身を起こす。
上半身を起こすと同時に、ガクリ、とまるで死人の様に首が後ろへと垂れる。

静雄は徐に溜め息をついた。


「…こりゃダメだ」

何度か酔いで潰れたサラリーマンの死骸に似た光景を路上の端で見掛けた事が、数多とあったが、正にそれ。
実にデロンデロンと言う言葉が合う。
どんな経緯で酔ったかは知らないが、全くもって甚だ面倒な奴だ。


「はあ………、」

何度めかの溜め息をついた。普段から溜め息などつかない静雄にとっては、踏んだり蹴ったりな日だ。
このまま放置していこうにも路上のど真ん中だ、通行人の邪魔になる。
路地裏にでも、とも思ったが後々どんな嫌がらせに合い自身の気分を害するかと思うと気が引けた。

…つまりは。

ズボンに入った携帯電話を取り出すと、アドレス帳を開き先輩の名前が登録された表示にいく。
言い忘れたが今は休憩中。
先輩に電話したら次は滅多に連絡は取らない闇医者へと電話するかと思考を巡らせ、静雄は携帯を耳に押し当てた。





本当に、厄介な奴だ
悪戯に翻弄して、
罠に嵌めて去って行く。

質が悪い。

だから絶対、自分の顔が僅かに熱くなってる事なんて、きっと幻覚だ。
ああ、きっとそう。


「ホント、むかつく野郎だ……」





袋最強、最弱
(ん…。いっ…)
(あ、起きた?痛いのは二日酔いだよ。どんだけ飲んだかは知らないけど、相当飲んだみたいだから自業自得かも知れないけど)
(新羅?俺、何で此処に?)
(覚えてない?静雄に運ばれてきたんじゃないか、もうデロンデロンで)
(………ッ!?[何した俺!?])








臨也さん覚えてないです(笑)
静雄が何気に優しい…
後日談はsssに書くかもですね



(池袋最強、最弱)
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