じゃぱにーず

◎恋人設定。日本人成人夢主。

日本から手紙が来た。両親からだった。
日本を出て、早くも2年がたっているのだから驚きだ。もちろん、年に数回は帰国しているし、吠えメールもビデオテープも、マグル式でメールも送っている。
最初は気の進まなかった海外転勤だったけれど、イギリスも悪くない。だからこそ、最後の一文にもやもやした感情がおこる。

≪そろそろ、任期も終わりでしょう。なまえが帰ってくるのを、楽しみに待っています。≫
そこだけを憎々しげに読み上げれば、近くにいたセブルスは頭にクエスチョンマークを浮かべながら私を振り返る。
日本語で読んだから、彼には言葉の意味は分かっていないだろう。
「何か、悪いことでも書いてあったのかね?」
紅茶のカップを手渡しながら、セブルスはそう言った。
「悪いことではないのですけど。」
「それならばなぜそんな難しい顔をしているのだね。」
治癒魔法の研修の為、ホグワーツに配属された私はマダム・ポンフリーの下で修業を積んでいた。そして、同じくホグワーツに勤務しているスネイプ教授と出会い、恋をして、今では恋人同士になるという・・・彼氏いない歴=年齢だった私が、とんだミラクルを起こしてしまった。
背が高くて、色が白くて、魔法薬学の教授だし、年上だ。
本人は鉤鼻がコンプレックス云々言っていたけれど、日本人の私からしたら鼻の形は別に気にならないのだ。

むしろ、私はアジア人だし背も低い。英語もまだまだ下手くそだし、魔法もそこそこだ。
それでもいいのか?と問いただした時に「誰かに何か言われたのか?」とものすごく怖い顔で聞かれた。生意気な上級生に馬鹿にされることはあったのだが、ことごとく教授に捕まって減点されていたので気にしていない。年の差は少し大きいけど、落ち着いた雰囲気の彼が大好きだった。

「・・・もうすぐ、任期が切れてしまいます。」
静かにそう切り出せば「もうそんな時期か」とスネイプ先生は感慨深げに言った。
「あっという間ですね。」
「今年の3月で契約が切れるのだったな。」
「はい。日本は4月からが新年度なので。」
こちらとは半年近くのずれがある。純日本人の私は、入学式は桜の咲く時期というのが当たり前の感覚だ。
「スネイプ先生は、遠距離恋愛は大丈夫な方ですか?」
そう尋ねると彼は目を細めた。
「日本に、帰るのかね。」
「帰りますよ。」
そう答えた。
スネイプ教授ことはとても好きだし、できることならこのままイギリスにいたい。
でも、留学するときに公共機関の奨学金を借りてきたので、研修が終われば数年は日本での勤務を約束しているのだ。
ヒーラーとしてもまだまだ半人前なのだ。

「イギリスの魔法界はとても良いところです。日本みたいにせせこましくないし、ホグワーツみたいに教育機関がしっかりしてる・・・日本の魔法界はやたら祈祷師とか陰陽師気にしてて息苦しいですし。」
「ならば残ればいい。」
スネイプ教授は静かにそう言った。規律や約束を重んじる彼にしては珍しいことだと思った。
「できませんよ。私の祖国は日本です。嫌だいやだって言っていても、結局は恋しくなるし、私はあの国に少しでも発達した癒術魔法を届ける役目があります。」
ようやく、私が彼の方をまっすぐ見つめると眉間に皺を寄せたスネイプ教授がいた。
「別れを、望むかね?」
「いいえ。」

待っていてほしい。
できることなら、私が成長して・・・今よりもっと立派になって再び戻ってくることを待っていてほしい。
けれども、そのためにどれほどの時間がかかるか私には想像もできなかった。
長い不在は恋を滅ぼす。
誰かが何気なく吐いたであろうそんな言葉が、ふいに頭をよぎった。
「教授のこと、とても好きです。尊敬しています。離れたくありません。」
そう一度に並べれば、彼の黒い目がわずかに見開かれた。
私のつたない英語が、真摯に聞こえたかどうかは分からない。それでも、伝える術はそれだけだ。スネイプ教授は少し不器用だから、回りくどいことをしても気づいてくれないということは何度も経験している。
「なまえ・・・」
「待っていてくれませんか?ここで・・・必ず、帰ってきます。」
そう告げながら、そっと教授の顔に手を伸ばした。

「わかった。」
「本当に?」
「ああ・・・だが、その前に。」
「?」
首を傾げた私に教授は少しだけ笑った。
「週末にでも、少し買い物に行こう。」
なぜ?と、私が首を傾げれば教授は「男避けが必要だ」と私の薬指を突いた。
意味を理解した私が「あ、」と声を漏らせば先生は『いつまでも傍に』と呟いた。それは、まぎれもなく私の母国語だった。
その言葉は、後に指輪の内側にひっそりと刻まれているのだからきっと教授は意外にもロマンチストなのだろう。

「いつか、君の国を見てみたい。」
「連れていってあげますよ。」
「そうだな。」
国を違えても、恋はできる。
もちろん、任期が切れて日本に帰る際にはスネイプ教授に抱き付いて、帰りたくないとぐずるのはまだ先の話である。

end


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