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私が朝食の席で小さくあくびを漏らすと、向かい側にいたセオドールが「寝不足か?」と聞いてきた。
「まあ、ちょっと」
ベーコンエッグにフォークを突き刺しながら頷けば、隣のパンジーが「この子ったらまた遅くまで談話室で本読んでいたのよ」と告げ口をした。
同室のパンジーには、私のことはなんでも筒抜けだ。別にプライバシーがないとかそういう文句はないんだけど、こう・・・あんまり不健康なことをするとこうして報告されるのが面倒くさかったりもする。
セオドールは「ジゼル、頼むから今日の飛行訓練中に注意散漫で箒から落ちるのだけはやめてくれ」と言った。

「箒に乗りながら寝るなんてむしろ常人にはできない芸当だと思うけどな。きっとスネイプが飛んできてすぐにでもクィディッチの代表入りできるさ」
ブレーズがそんな冗談を言って笑っていたけれども、それでもセオドールは嫌な視線を私に寄越す。
「ブレーズ、笑い事じゃないぞ。このお転婆娘が怪我をしたらこいつのパパにどやされるのは僕なんだから」
至って真面目に言っているセオドールに、私ははいはい、と手を振る。

「私のナイト様は今日も真面目でいらっしゃる」
ねぇ?と、グレゴリーに同意を求めれば、彼は「セオドールの気持ちもわからなくはないけど」と言葉を濁した。
「どうせ同じ授業取るんだから、もし落ちたら上手に捕まえてね」
私が諦めてそう笑えば、セオドールは「本当にやめて」と項垂れていた。


そのうち、朝の梟便の時間がきて、家からはいつものようにお菓子の包みが届いた。受け取ってから席を立ち、そのまま寮に帰る。セオドールも一緒に立ち上がった。
「先行くね」
「もう?」
「パパからの手紙、早く読みたいの」
そう伝えれば、パンジーは「はいはい」と手を振った。

出口に向かう際にちらり、とグリフィンドールの席を見れば、白い梟がハリーのところへいくつかの手紙を運んでいるようだった。それは、喜ばしいことだった。それが、両親からの手紙であればいいと、そう思った。
一方、その隣でネビルが思いだし玉を手にしていた。
「ばあちゃんからだ!」という声を聞き、私は少しだけ嫌な予感がした。無意識に視線をそちらに向ければ、確かに彼の手の中にはガラス細工のような綺麗な球状のものがおさまっている。
嫌な理由は二つ。ネビルの両親がどういう状態かの情報が分からないこと。そして、そこにガラス玉があるということは・・・・。



「へぇ、良いもの持ってるな」
はぁ?と私は驚愕した。
思いだし玉をかすめ取ったのは、一つ学年の上のスリザリン生だったからだ。生憎、グリフィンドールの監督生は不在だ。
ネビルの両サイドにいるハリーとロンが怒ったような顔をして、口を開く。恐らく、彼がスリザリン生だとわかったのだろう。


「・・・人の物を勝手に取り上げるのはどうかと思います」
私は、ポン、と彼の背中を叩く。
突然の私の行動に、一緒にいたセオドールが「ジゼルっ」と小声で私の名前を叫んだ。
声を荒げかけた二人は私の顔をまじまじ、と見た。
思いだし玉を取り上げていた彼は、私を怪訝そうに見てから「なんだ、マルフォイか」と肩をすくめた。
「忘れてる中身も忘れてるのに必要ないと思わないか?」
意地悪そうな顔をしているこの男がスリザリンにいる理由が分からない。彼は全く持って賢そうにも見えない。こんな人の集まる大広間で、良くもまぁどうどうと一年生に絡めるものだ。

彼は何度か宙に玉を投げて弄んだ。
食いかかろうとするグリフィンドール生に私はやれやれ、と思いながらも首を振った。
「必要か、必要でないかはロングボトムが決めること。早く持ち主に返して」
そう突っぱねれば、彼は短く舌打ちして歩きだしながら思いだし玉を放った。
「落ちる!!」
そう叫んだハリーをよそに、ぴたりと玉は宙に浮いた。
振り向けば、マクゴナガル先生が立っていて、セオドールが嫌そうに顔をしかめた。


「なんの騒ぎです」
そう尋ねられても、既に根源の彼はそさくさと大広間を出ていった。
この図では、まるで私とセオドールがグリフィンドール生を苛めているようではないか。と、思っていたらハリーが口を開いた。
「スリザリンの上級生に、ネビルが思いだし玉を取られて、マルフォイがそれを返すように言ってくれたんです」
「そ、そうです」
ネビルも恐る恐ると言った様子で私を見た。
マクゴナガル先生は、ネビルに思い出し玉を返しながら私を見下ろす。正直言って、この人は怖い。悪の塊みたいな怖さには若干の耐性はついているものの(主に親族のせい)、正義の塊のような怖さには慣れていないからだろう。何を言われるものか、と思っていればマクゴナガル先生は微かに笑っていた。

「素晴らしい行いです。この件は、スネイプ先生にもお話しておきましょう」
「へっ?」
間抜けな声が出てしまったが、そのままマクゴナガル先生は立ち去っていった。
セブルスに後で何か言われたらいやだな、と思いつつ私はセオドールに「早く出よう。視線が痛い」と、急かされた。

「マルフォイっ」
ネビルに呼び止められて、私は振りかえる。
「あっ、ありがとう」
私はニッ、と最上級に悪い笑顔を作っていたと思う。



「今日は持ち歩かない方がいいと思うよ?飛行訓練中に落として割ったら困るでしょう?」
そうキツめに笑えば、ネビルの顔が赤くなった。
ロンが何か反論しかけたが、その前に私は「それじゃあ」とさっさとセオドールのローブをつかんで逃げさせてもらった。


「ジゼル、本当に予想外の行動するのはやめて、頼むから」
広間を出たところでそう言われ、私は素直に謝った。
「うん、あれはやりすぎた。ごめんなさい」
「スリザリンの上級生も見てたよ。・・・放っておいてもマクゴナガルが来ただろう?もうちょっと、考えて行動してくれ」
「うん、分かってる」
「確かに、あの人は軽率だったし、君が怒る理由も分かるんだ。けど「分かってるから」・・・」

言いたいことは分かるのだ。

ポッターが半純血だから?ウィーズリーが血を裏切るものだから?それとも、彼らがグリフィンドールだから?相手が先輩だから?
そんな考えを押し込めながら、そう制すれば、セオドールは私の肩を叩いた。



「ジゼルが、スリザリンの皆から悪く思われることになるのが嫌だ」
その言葉に、私は「えっ?」と思わず言ってしまった。
「君は家柄も良いし、頭もいいからね。喧嘩を売るような馬鹿はいないとは思うけど」
「・・・セオドール」
「でも、気を付けて。本気で、グリフィンドールを問答無用で嫌悪してる奴らもいるから」
その忠告に私は頷いた。

セオドールにしては、よく喋る日だとそう思いながら私は感謝した。
「・・・さっきの、パパに内緒ね?」
「分かってるよ。そんなことしたら、一緒にいたのに見ていただけの僕がどやされるからね」
もう、朝から疲れたよ。と、項垂れるセオドールの背を叩いて「ほら、元気出して。お菓子上げるから」と笑えば、彼は恨めしそうに「フィフィ・フィズビーがいい」と呟いた。



それ!私の大好物なのに!!


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