死んだあとのことなんて、誰にも分かりはしない。
天国に行くだとか、地獄に落ちるだとか、未練があって幽霊になってしまうだとか、そんなことは死んでみたいと分からない。その死んだ人間が、死んだあとのことを生きている人たちに語ることもない。だからこそ生きている人間は死の先がどうなっているのかなんて誰にも断言できないのだ。
…これは私個人の見解だけど、死んだあとは特に意味のない無の空間だと思っていた。天国も地獄も、ましてや思い残すこともなく、ただ死を迎えたら"私"という個は消滅してしまうのだと。――けれど私は、その考えを改めることになる。


「うわ…次の化学小テストだっけ…? やばい何もしてないわ」
「あんたはいつものことでしょうが。今更嘆くふりはやめなさい」
「あは、バレた?」


三限目の授業が終わる鐘が鳴る。クラスメイトたちはみんな雑談を始め、次の授業への移動や準備を始めていた。
――私の通っている高校は、何も変わらないままだった。建物はおろか、クラスメイトや先生、席順ですら一つも変わっていない。私が僅かに覚えている記憶通りの風景がそこにあった。
とても懐かしい、忘れかけていた"現実"。最初は戸惑ったし、驚いたけど、今はもうこうして元の自分を取り戻している。不思議なものだ。あれだけ長い間この世界とは離れていたのに。忘れてしまっていたのに。


「ねぇ、リク。やっぱりサボらない? 今日最後の授業が化学の小テストとかやってらんないでしょ?」
「受験前に成績落とすわけにはいかないでしょ。推薦でほぼ決まってるからって巻き込まないでよ」
「ちぇー」


友人が嫌な顔をしながらも教科書を机の中から出しているのを横目に、私も次の授業への準備を整えて席を立った。
季節は夏の終わり。夏休み明けであろうその時期は残暑が厳しい季節だ。…セミの声は聞こえない。私が意識していないだけかもしれないけれど。
友人がだるそうにゆっくりと歩き出したあとに続き、教室を出る。授業と授業の合間であるためか、廊下に出ている生徒は多かった。
化学室へ移動していると、階段の前あたりでわずかな人だかりができているようことに気が付く。友人は興味が湧いたのか、私に声をかける前にその人だかりへと近づいていく。私も釣られるようについていくと、人だかりができている理由をすぐに理解する。


「あー…なるほど。これは確かにみんな立ち止まっちゃうね」
「……そうだね。やっぱり絵になるし」


友人の一言に同意して、私は自然と笑みがこぼれた。
私たちの前にいたのは、教室の廊下で世間話をしているだけの二人の生徒。それが普通の生徒なら、これだけ人だかりができることもないだろう。けれど、その二人は学園でも注目されている二人なのだからこうなってしまうのはしょうがない。
金髪がよく似合う男子生徒は、好青年であることで有名なこの学校の生徒会長であり、もう片方の女性はマドンナとも呼ばれる女生徒だ。


「美男美女っていいよね。目の保養にもなるし」
「そうだね。特にあの二人は見てて微笑ましい」
「外人ってホントにそういうところ特だよね〜。マドンナちゃん…ええーと名前はエステルさんだったっけ? フレンくんとは幼馴染だってね。あれでまだ付き合ってないらしいけど」
「だろうね。あの二人ってなんかそういう雰囲気じゃないし」
「ええー絶対いると思うんだけどなぁ、彼氏。あれでいないなんて世の中可笑しいよ。…あっ、もしかしたらもう一人の方かも? 名前なんだっけ…」


辺りの生徒と同じく、こそこそと二人の様子を見て語る友人に溜息が零れる。本当に噂話が好きなんだから。それを止めない私も私だけど。
注目を集めている二人は、私も見覚えがありすぎる人たちだ。まあ"ここ"では友人にも満たない知り合い程度でしかないけど。


「うおーい君たち、見惚れてるのもいいけどそろそろ次のチャイム鳴っちゃうぞ〜?」
「うわ、でたテキトー教師」
「聞こえてますけど? テキトーなのは認めるけど、これでもおっさんは先生なんだからいうことは素直に聞きない。ほら、行った行った!」


無精髭の生えた白衣の教師に、私たちは背中を押される。彼の言葉が聞こえたのか、立ち止まっていた生徒たちは蜘蛛の子を散らすようにその場から離れていく。
友人も仕方がないと言いたげに(すごく嫌そうな顔してたけど)本来の目的である階段を下り始めた。私もそれに続こうとして、もう一度"先生"の方へ振り返る。


「ん? なになに? もしかして俺様に惚れちゃった?」
「…いえ、レイヴン先生はやっぱり胡散臭いなぁと思って」
「だーかーらぁー…おっさんこれでも教師だって何度言えば…」


返ってくる予想通りの反応に、私は緩む口元を隠せずにいた。
冗談です、と弾んだ声で返答し、今度こそ友人の後を追って階段を駆けだす。――災難はその瞬間にやってくる。


「…っあ、」
「えっ! ちょ、リク! 大丈夫!?」
「ご、ごめん。やっちゃったみたい」
「あ〜もう、言わんこっちゃないんだから」


階段を踏み外し、私の足首は変な方向へと曲がってしまった。そのままバランスを崩した私は、前を歩いていた友人の背中に当たってしまう。…友人が階段を降りきっててよかった…。
友人も驚いて私の肩を支えてくれた。別れた直後のせいか、先生にも見られていたようで呆れた顔で私の足の様子を見てくれた。…どうやら捻ってしまったらしい。


「うわ、腫れてる。こりゃ捻挫だわ。保健室直行。歩くのも辛いでしょ?」
「いえ、このくらいは…。あと授業受けるだけですし」
「何言ってんのよ、リク。捻挫は今日直るもんじゃないでしょ? 先生にはあたしが言っておくからあんたは保健室行ってきな」
「う、うん…」


友人と先生に催促され、私は結局保健室へ行くことになった。
レイヴン…先生が一緒についてきてくれると言ってくれたけど、彼には次の授業があるし、友人を授業にさせるわけにもいかない。保健室はここから遠くないし、私は一人で保健室に向かうことにした。
授業開始のチャイムが鳴る。友人と先生は教室に間に合っただろうか。


「(……痛み、全然ないな)」


足首の捻挫といえば、少し動かすだけも痛みが走るはず。けれど、私にはそれが一切なくて、足首はただ腫れているようにしか見えなかった。
けれど私はそれを少しもおかしいなどと思ったことはない。痛みはおろか、味覚や暑さをを感じることだってないのだから。
―――これは私が見ている夢なのだから。


「失礼しまーす…。先生いらっしゃいますか? …先生?」


保健室の扉を開いて呼びかけても、先生の姿を見つけることは出来なかった。どうやら不在らしい。…ただの捻挫だから、先生を呼ぶほどのことでもないか。
私は中央の机を囲むようにして置かれている椅子に座る。机の上に綺麗に整頓された救急箱を覗き込んだ。…ええと、捻挫の治療法ってどういうのだっけ。まずは冷やすのか。氷用意しないと。
今まで軽い怪我は治癒術でなんとかしていたからか、こういうことにイマイチ慣れていない。私は保健室の隅にある製氷機へ向かうために立ち上がろうとしたが、それは背後から伸びてきた手に肩を抑えつけられ、適わなくなってしまう。


「座ってろよ。足、捻挫してんだろ」
「あ…」


何事かと見上げてみれば、見覚えのありすぎる顔が私を見下ろしていた。
半開きの瞳。眠そうな顔。呟くなり軽く欠伸をした彼は、そのまま私が行くはずだった製氷機へと歩いていく。
私はただ黙ってその後ろ姿を見守っていた。器用にまとめられた長い黒い髪が揺れている。氷嚢に氷を詰めた彼は、そのまま私の方に戻ってきて目の前の椅子に座った。


「ジュディは会議でしばらく帰ってこねぇ。…オレが手当てしてもいいか?」
「…お、お願い、します…」
「ん」


彼はそう返事してまた欠伸をしていた。一つだけシーツが乱れたベッドがあるのを見ると、どうやら彼はここで眠っていたらしい。…調子が悪そうにも見えないから、サボりというやつだろう。
ジュディというのは、保健室の先生であるジュディス先生のことだろう。そうか、会議だからここを開けていたのか。
彼の大きい手が私の足に触れる。…ドキリと鳴らないはずの心臓が鳴った。どうしよう、足震えてないかな。心臓の音、聞こえてないかな。顔も、赤くなってないかな。


「…悪い、痛かったか」
「え? い、いやそんなこと全然…」
「痛いんならはっきり言ってくれた方がこっちは有り難いんだけどな。そうやって泣かれるよりは」
「え…」


彼に指摘されて、初めて自分の瞳から涙の滴が零れていることに気が付いた。…どうやら、私は自分でも気がつかないほどに混乱しているらしい。目の前の彼は――ユーリは困ったような顔をしていた。


「ご、ごめんなさい! 決して痛いからとかじゃなくて…!!」
「じゃあなんで泣くんだよ…嫌ならこれ以上は触れないでおくけど?」
「嫌とかじゃなくて…! その、ごめんなさい…。気にせずに続けていただけないでしょうか…」
「まあ、あんたが本当にいいならいいけど」


―――これは、私が見ている夢だ。
この学校は、この光景は、この人たちは、私が描いている最後の夢。
私はあのとき、オーマとの闘いで死んだ。それだけははっきりしている。けれど私は気が付けばここにいて、こうして元の世界と変わらない学校生活を送っていたのだ。
…元の世界の学校と違うことといえば、ユーリたちが生徒としてここに通っているということだろうか。彼らがここにいるのを見て、周りがそれを何の違和感もなく受け入れている様子を見て、私は、この世界が私の夢であることを知った。
もう、この夢を見始めてからしばらく経つ。春だった季節は夏にまで伸び、私はただひたすら学校に通っていた。元の世界と変わらない学友、先生、家族、風景。二度と帰ることが出来なかった場所にいることが信じられなくて、最初は混乱しかなかったけれど…今はもうそれを受け入れている。永遠に終わらない夢を甘受している。
私の場合だけかもしれないけれど…死後の世界は天国でも地獄でもなく、もう戦うことがない、覚めない夢の中だった。
夢の中だから視界はぼやけてばっかりだし、感覚はほとんどない。けれど、死後の世界にしてはとても良い場所だった。


「ほら、これで固定できたぜ。あとはちゃんと冷やしておけよ」
「ありがとうございます…」
「今日はこのまま帰っても怒られはしないと思うぜ。ジュディにはオレが言っておくし」
「いえ、小テストがあるので授業には出たいんです」
「真面目だな、あんた。がっちり固定したから歩き辛いだろうし、捻挫した足を歩かせるのも得策だと思えねぇけど」
「授業中は座りっぱなしですから。…それじゃあ、授業後にまた来ます。処置していただいてありがとうございました」
「……気を付けろよ」


ユーリが私の足を治療してくれた頃には、私も落ち着いていて、涙がこれ以上零れることはなかった。
この世界のユーリたちとは過剰に接触していなかった。一切関わらなかったわけじゃない。生徒会長のフレンはよく朝礼で話を聞かせてくれるし、エステルも選択授業が一緒のときは軽く喋ったりもする。レイヴンは言わずもがな、彼の授業を受けているから先生と生徒として会話する。リタは一つ下の学年で、カロルは近くの中学校にいるからそう対面することはないけど、この世界にいることは確認済みだ。
ユーリは私と同じ学年。受験前の大切な時期のはずなのに、こうして授業をサボってフレンに廊下で怒られている場面を見ることは何度かあった。けど、こうして話すのは初めてじゃないだろうか。クラスも違うし、授業もあまり出ないユーリとは接点があまりなかったから。…だからこんなに過剰反応しちゃったのかな。本人の目の前で泣いちゃうだなんて、恥ずかしい。
私は当たり前のように見送るユーリに頭を下げて保健室を出る。本当ならユーリも授業のはずなんだけど、それを注意するほど今の彼とは仲が良くない。


「(……けど、それで充分満足してる)」


生きていたころよりも充実しているのではないかと思うほど、この死後の世界にやってきてから、私は常に満たされていた。そして気が付かされる。私が一番望んでいたものは世界を救うための大冒険だとか、そういうものじゃなかったんだって。
私が欲しかったのは『普通』。ごく当たり前の日常だ。戦いなんてものはもちろんなくて、血を見ることなんて滅多にない。今思えばとても平和ボケした望みだ。…けれどそれの何が悪い。…私はこの日常を求めていた。他愛もなく話せる友人を。小さなことで一喜一憂できる毎日を。


「だから、マジで…頼むからな…」


「…え?」


足の痛みなど関係なく、頭を過った光景に歩みが止まる。
…今のはなんだろう。今見えた光景は覚えのないものだ。長い幸福な夢の中で、こんなことは一度もなかったのに。
頭では気のせいだと自分を落ち着かせようとしたが、足は震えてうまく動いてくれなかった。自分に起こっている奇妙な出来事に驚いている間にも、頭痛は続く。


「お前を守れなかったこと…忘れちまったこと…あやまってもたりないことは、わかってる…でも、おまえもかなり、無茶、したから…おあいこ、だろ」


「いや…何なの、これ…」


「でも、死ぬことだけは…おまえが、死んじまうのは…さすがにオレも、無理だ。…それだけは、絶対に……許せない」


「やめて! こんなこと、起こってない!!」


壊れたビデオテープを見ているかのように、途切れ途切れに過る記憶は、私のものではないはずだ。
そうだ。私はオーマを封印して、世界を…みんなを守ることができたんだ。だからあんな光景があるはずない。――ユーリが、私を庇って死んでいくなんて。
握りしめていた教科書が落ち、私は空いた手で両耳を塞いだ。両目も閉じた。けれどそれが止まることはなく、目の前で血塗れのユーリが私に微笑みかける映像だけが流れ続けた。


「……おい! 何かあったのか?」


背後から駆け寄ってきた制服姿のユーリが、私の悲鳴を聞いて駆け寄ってくる。まだ保健室からそんなに遠くないせいだろう。私の声も響いてしまったに違いない。
恐ろしい光景を見て溢れ出そうになった涙が止まる。…大丈夫。これは私の夢。ユーリは死んでない。死んだのは私。私が死んで、世界は元通りになったんだ。…ユーリたちも、元の生活に戻ってる。私のことを忘れて…幸せになってくれている。
あの映像は、私の恐怖や不安が表に出てきてしまった結果だ。私の夢の中なのだから、それも充分あり得るじゃないか。


「大丈夫…大丈夫です、ごめんなさい…」
「いや、全然大丈夫には見えねぇけど。…なんでそう無茶したがる? ――もう、全部終わったんだろ」


呼吸が、止まる。
教科書を拾い上げた私は、驚きに目を見開いてユーリを見た。…彼は変わらず、制服姿のまま私の目の前に立っている。けれど意地悪気に口端を上げるその表情は、私の知っているユーリのものだった。
ユーリの大きな手が私の頭に伸び、そのまま強く撫でられた。……ああ、ちょっと待って私の夢の中のユーリ。ユーリと瓜二つなあなたにあの映像を見た後でそんなことされたら…、


「……っそう、全部…終わったの。やっと、ぜんぶ…」


耐えていた涙が、大粒の雫となって瞳から次々と零れ落ちる。
まともに目の前のユーリの顔が見えなくなるほど歪む視界の中、私はこれまでに起こった様々なことを思い出していた。
――長かった。本当に。私がアウラさんに呼び込まれたからというもの、困難の連続だった。ユーリたちとの旅を終えた最後の二年は特に辛かった。クロノスから時の経過を聞くたびに、まだそれほどしか経っていなのかと嘆き続けた。
私は一人でも大丈夫。ずっとそう思っていた。みんなに忘れられても、私は一人でだって生きていけるって最初は思っていた。けれど時間が経つにつれて、独りでいることの重みを知った。存在が認識されないことの絶望を味わった。世界に捨てられるということが、こんな"死"を意味していたとは思っていなかった。
――もう…みんなに忘れられる苦しみを味わうことも、独りで星を見ながら泣くことも、戦いであんな痛いを思いをすることも、ない。


「やっと…私は解放される…。世界のことも、自分のことにも悩まなくていい…もう我慢しなくていいの…私は、やっと自由になれた…!」


いつだって私の望む選択肢は残されていなかった。
いつだって私は覚悟することを義務付けられていた。
けれどそれももう終わり。私はその命を終えることで本当の自由を手に入れた。だから、私はこの夢の中で望むものを手に入れられている。私が最も私らしくいられる場所にいる。
ボロボロと零れる涙をそのままに、ユーリは私を抱きしめてくれた。大声で子供のように泣きじゃくる私を、本物のユーリみたいに優しく。


「ああ、そうだな…お前はもう世界のことなんて考えなくていい。…もう、他人の幸せじゃなくて自分の幸せを望んでいいんだ」

「リク、オレも幸せだったよ。……ガラじゃねぇけど…お前に、会えて…ほんとうに良かったと、思ってる…」


「普通の、どこにでもいる…ただ精一杯今を生きているだけの人間に戻ろうぜ」


涙を流しすぎているせいか、チカチカと視界の中で白い光が瞬いている。けれど耳元で囁いてくれているユーリの声だけは確かに聞こえていた。
『戻ろう』。その言葉が何よりも私を救ってくれるもの。そうだ、戻ろう。私は元々、世界を背負うだなんて大きな目的を果たせるような人間じゃなかったはずだ。色んなことを経験して、みんなに自分を大きく見せ続けたけど…元はと言えば、ただ受験勉強をしていただけの…ちっぽけな高校生だった。
この夢の中なら、それを叶えられる。…私にはもう他のことを気遣う必要はなく、私は私だけの幸せを考えることが出来る。


「……本当に、いい夢だなぁ…」


私の求めていた日常も、大好きだったユーリたちもこの夢の中にいる。
死の先にあったこの夢が、全てを叶えてくれる。
ユーリの指が私の頬に滑り、涙を拭ってくれた。歪みっ放しだった私の視界は、彼のその動作によって徐々に晴れていく。慣れたその動きは、今まで私の涙を拭い続けてきてくれた私の知っているそれと同じものだ。私の夢の中のユーリなのだから、当然なのかもしれないけれど。
そんなことを考えていると、涙を拭い終えたユーリが私の両頬を包み込んで笑い始めた。


「ははっ…いや、悪いなリク。










――――夢じゃねぇよ」


やっとはっきりと見ることができたユーリは、嬉しそうに私の泣き顔を覗き込んでいた。髪はまとめられてないし、さっきより若干老けたようにも見える。制服も着ていない。……私の知っている、私のユーリが目の前にいた。
少し潤んでいる紫色の星のような瞳が私を映し出している。ユーリの大きな瞳の中に、包帯だらけな私の顔が映っているのだ。


「………ああ…うそ…これは、きっとゆめ……しあわせな、私の…っ」


気が付けば全身から痛みを感じた。私も制服を着ていないし、持っていたはずの教科書もない。
これはきっと夢の続き。だって、あんな状態になった私が助かるわけない。…ユーリたちが私をまだ覚えているはずない。
頭ではそう分かってるのに、ユーリの手の熱を感じることがどうしようもなく嬉しくて、私はまた声を上げて泣いてしまった。
- ナノ -