「小娘、余興に一つ聞いてやろう。貴様は何が目的でここまで来た?」


人間ではない、どこか不協和音に聞こえる歪んだ声が微かに言葉となって耳に届く。その声には息切れどころか、感情の起伏は何も感じない。本当に余興の一つって感じだ。
私はその問いにすぐ返答することができないでいた。返答の言葉を考えるのも惜しい。今は目の前の強敵を、私ひとりでどうするのかを必死に考えているのだから。オーマから身を隠すように柱の影に隠れているものの、見つかってしまうのは時間の問題――。
そう思っていた直後のことだ。私の頭上を白い触手が通り抜けたのは。私の身をまるごと隠してくれていた太い柱は、その一撃によって粉々に破壊されてしまった。


「王が問いかけているのだ。迅速に答えよ」
「(やっぱり駄目だ、どこに隠れても気付かれる…!) …あなたがエアルを乱しているせいで、ザウデどころか世界中のエアルが乱れてるんです! 放っておくわけにはいかないでしょう!!」


オーマと戦闘を始めてからというもの、私は逃げて隠れての行動を繰り返していた。まともにやって勝ち目がないのは分かっている。だからこそ、戦い方は工夫しなければならない。けれど二年間戦いから離れていた私にそんなまともな作戦がたてられるはずもなく、こうして逃げ回ることしかできないわけだ。
けれどオーマにも仲間意識というものはあったらしい。十六夜の幽居街に住んでいる満月の子たちを巻き込まないように、私があそこを離れるまで攻撃の一つもしてこなかった。…まあ、私がまたエレベーターで一つ下の階に逃げた瞬間に攻撃はしてきたんだけど。
オーマは各階にいる魔物たちをも薙ぎ倒しながら私に向かってきていた。…標的が私なんだからそれはそうなんだけど、あれほど逃げ回りながら戦っていた魔物たちがまるで羽虫のように殺されていく光景に純粋な恐怖を覚える。


「そんな慈善活動でここまで来たのか? 一人で?」
「世界にまた、星喰みが生まれるかもしれない緊急事態。慈善活動でもなんでもしないと。…またあんな災厄と戦うのは御免ですから」
「ほう、星喰みを滅ぼしたというのか。お前のような人間が!」
「始祖の隷長(エンテレケイア)…精霊と、人間が手を取り合った結果です!」
「ふざけたことを…千年経ってもまだ、そんな腑抜けた選択をしているというのか!!」


人間、誰にも地雷となる言葉は存在する。ちょっとした一言でころっと性格が変わってしまうほど怒ったり、落ち込んだりするものだ。…どうやらオーマにもそれが存在するらしい。そして私はそれを見事に踏み抜いてしまったというわけだ。
オーマの怒声と共に今まで比較的大人しかった背中の白い触手たちが一斉に動き出した。標的である私に向ってだけでなく、この空間全てに八つ当たりするように乱雑に蠢いている。古代の技術でできた部屋がこんなにも滅茶苦茶だ。……まずはあの触手からなんとかしなくちゃ。


「駆けろ、氷結の槍! フリーズランサー!!」


私に目がけて伸びてきたオーマの触手を、氷の槍が射抜き、床へと縫い付ける。それでも、ランダムに動く触手を一度に仕留めるはやっぱり無理だった。
せっかく一つの触手の動きを封じても、他の触手がそれを自由にしてしまう。…触手を縫い付けた氷の槍も、他の触手たちに壊されてしまっては意味がない。でも、やっぱりあの触手たちをなんとかしないと本体に攻撃が届くはずもない。
だからこそ考え続けていた。――一人で戦うということは、こんなにも大変なことなんだと実感する。二年前の私が、どれだけユーリたちに助けられていたのかが浮き彫りになる。


「……成程。酔狂にも理由があるというわけか」
「…!!」
「こちらが勘違いをしていたようだ。それは詫びよう」


怒りに染まっていたはずのオーマの表情が、変化する。絵の具のそれのように真っ白な肌には亀裂が走っていた。
こんなにも早く本体が登場するのか。それとも、たったこれだけの戦闘でも、人の姿を保つには辛かったのか。どちらにせよ、オーマの姿はどんどん変形していった。…中途半端に怖いホラー映画を見ているような気分だ。思わず目を背けたくなる光景だったけど、何が起こるか分からない。私は生唾を飲み込んだ。
触手の数が倍に増え、その姿はどんどん私の知る"それ"の姿になっていく。
長い時間をかけてあの姿になったというのに、それを簡単に捨てて本来の姿に戻った。…それはつまり、私がそれなりの相手だと判断したからだろう。


「貴様は、我が全力を以って相手をするに相応しい人間―――いや、始祖の隷長だったようだ」


満月の子の主はやはり、エアルのことに関して鋭いようだ。
オーマの攻撃で開いた傷口をそのままに、私は空笑いを零しながら化け物になったオーマを見上げた。



***



二年前、星喰みが私たちの手によって滅んだそのあとも、オーマは外の世界の情報も分からないままこの地下で力を蓄え続けていた。
アウラさんの制御から外れたザウデ。アレクセイの一件でその機能は失われていたが、この地下のシステムについては別だった。ザウデのメインシステムと繋がっていても、別物で動き続けていた。だからこそオーマはザウデのエアルを誰にも気付かれないまま自分で手にすることが出来ていたし、だからこそ私が知っている彼よりもパワーアップした状態だったのだろう。
ザウデからエアルの乱れが世界中に及んでいる。そう精霊たちの調査結果を来たとき、クロノスは真っ先にオーマのことを思い浮かべていた。私もクロノスからその話を聞いて始めて納得したのだから。
オーマの目的は始祖の隷長や裏切った満月の子たちに復讐すること。その標的は間違いなく、ザウデと共に生まれたアウラさんにまず向くだろう。本来ならばザウデのエアルの乱れが世界に影響を及ぼすなんてありえないこと。調べればザウデが可笑しいと始祖の隷長たちが気が付くのだから。…だからこそ、オーマはそれを実行した。始祖の隷長を…アウラさんを誘き寄せるために。オーマ自身は封印があって、この地下から出られない。わざと自分の前に現れなければならない状況に持ってきたのだ。――だけど、やってきたのは小娘一人。オーマは拍子抜けしただろう。


「(―――でも)」


こちらへ振るわれたオーマの白くて大きな手を寸前のところで避ける。そしてそれによってノーガードになった脇腹へ再び氷の槍を叩きこんだ。私自身もその技の威力によって吹き飛んだが、オーマ自身へ直撃させることができた。
ぐぅ、と苦しそうな声を零しオーマは後退する。怯んだその隙をついてオーマへ追撃した。今の私には魔術しかない。ありったけの力を込めて魔術を放つ。
しかしその猛攻もやっぱり長くは続かない。反撃の隙を与えなかったものの、触手すべてを牽制するのには足りなかったらしい。刃のようにこちらへ伸びてきた触手に振り払われ、私はあっけなく壁に背中を叩きつけられた。


「小娘が…なかなか手間をかけさせる…!!」


最初の状況とは裏腹に、私はなんとかオーマにダメージを与えられているようだ。触手は相変わらず健在だが、本体のオーマがダメージを受けることによって動きが鈍くなることは確認済みだ。相変わらずオーマの方が優勢であることは変わらないけど、彼についての情報がなんとか集まりつつある。
魔術しかない私と、近距離でも遠距離でも攻撃ができるオーマじゃ追い詰められるのは当然だ。こんなに戦うのは二年ぶりだし、身体が戦いを思い出すのに時間もかかった。…二年前のことを思い出しても、一人で戦うのはやっぱり初めてなんだけど…。
私は背中に走った痛みに奥歯を噛みしめて耐える。次の攻撃に備えてなんとか立ち上がった。


「まだ、まだ我に歯向かうというのか…!! その身体でまだ…!!!」


その拍子に、ボタボタと鉄臭いものが私の身体から零れ、床を汚した。色はよく識別出来ない。けれどなんだか黒いような…赤いようなものだというのは分かる。
確かにオーマに一人で戦えるほどの情報は集まったけれど、それを手に入れるのに私自身もただ済むわけがない。元々開きすぎていた実力を改めて見せつけられたみたいだ。最初に攻撃をまともに受けてしまったときは本当に痛かったけど、ボロボロにされていくうちにようやく活路を見つけて今に至るというわけだ。…今はもう、痛みなんてほとんど感じない。痛いというにもその範囲が広すぎて麻痺してしまっている。
左腕はもう使えない。左腕から変な音が聞こえて動かせなくなってから確認しないようにしてる。足は足で熱い。痛みというよりは熱で支配されているようだ。立つことはできるけど走ることは出来ないかもしれない。何かの拍子に軽く切られてしまった額からから溢れる血が止まらなくて、片目はもう機能していないと言っていい。視界はもうぼやけてて、目の前にいるオーマは『色』でしか認識できない。けれど耳は何故かはっきり機能している。信じられないと言いたげな彼の声はちゃんと耳に届いていた。


「何故諦めぬ…絶望せぬ!? 貴様はすでに死んだも同然!! 何故まだ立ち上がる!?」
「……」
「そこまでして守る価値があるというのか! その精霊とやらを! 何も知らずにのうのうと生きている人間たちを!!」
「…守る価値とか、そういうのは…考えたこと、ないですね…」


良かった。まだ喉も機能している。
オーマの表情は分からないけど、その声色は今まで聞いていた自信に満ち溢れたものではない。心底理解できないものを目の前にして、戸惑い…そして僅かに恐怖を抱いているような…そんな声。
…守る価値。私がここにいるのはそういう理由じゃない。この世界は守る価値がある。そうでなければ私は二年前に、この世界を見捨てていたはずだから。けれどそういうことじゃない。私がここにいるのは二年前と同じ理由。――ただの自己満足だ。


「世界は貴様のしたことに気付かない! 理解できない! ここで一人死んでいっても、誰も知ることはないのだ!!」
「私は…私のために、ここにいる…!! 自分自身と…この世界に! ケジメを付けるために!!」


自分を奮い立たせるように喉の底から叫ぶ。それと同時に、再びオーマへ魔術を放った。私はオーマについて情報を手に入れることができたが、それはオーマも同じ。私の魔術に関しては対策が練れているだろう。…けれど、私はもう捨てるものは何もない。全てを目の前の敵に注ぎ込んでいる。


「だからオーマ! ここで大人しくしてて!!」
「たった一人で何をしようというのだ!! 小娘ぇぇえええ!!」


私はこの二年。魔物と精霊たちとしか会話をしていなかった。精霊たちは私に気を使って頻繁に様子を見に来てくれていたけど、なんだかその気遣いが虚しく感じて、私はそっけない態度ばかりとってしまっていた。一番一緒にいた魔物たちとは声を出さずとも通じ合えるみたいだった。私が一人になりたいときは一人にしてくれたし、傍にいてほしいときは傍にいてくれた。言葉がない分、魔物たちはただ黙って私を見守ってくれて、とても温かかった。…私が始祖の隷長としての力を取り戻していると気付くのにそう時間はかからなかった。
始祖の隷長は様々種族から誕生する。私もその一人にすぎない。前はアウラさんの聖核(アパティア)があったからそうなってしまっていたけれど、今回はそうじゃない。自然な形で、私は人間から始祖の隷長になったのだ。それはきっと、バウルと同じ。正確には始祖の隷長として成長を遂げる前の状態だろうか。人間に戻れたのは僅かな間だけ。私は再び『使命を持った始祖の隷長』となったわけだ。


「(…でも、何故か悲しいとは思わなかった)」


逆に、安心している自分がいた。始祖の隷長はこの世界特有の存在だ。私がいた元の世界にいない。私がそんな存在になれたということは、この世界に存在を認められたと言ってもいいんじゃないか? 私はそう喜んでしまっていた。…ユーリたちにも、これで覚えていてもらえると。
オーマの触手が伸びる。彼の攻撃方法は主にこれだ。容赦なく伸びた白い触手を避け、私は懐に忍ばせていた小刀を抜いた。オーマの息を飲む声が聞こえる。…私はその小刀でその触手を切り落とした。強大な触手だったため、その一撃だけで昔からお世話になっていた小刀にはヒビがが入り、砕けてしまったが。
痛みと怒りにオーマが咆哮を上げる。けれどそれに怯んでもいられない。私はすぐに次の攻撃に移る。


「(…私に希望なんてない。…ずっと独りぼっち)」


ここ数日のことを振り返っても分かるように、ユーリたちが私のことを思い出すことはなかった。…本当はね、数回あなたたちに会いに行ったんだよ。挨拶程度だけど、会話だってしたんだよ。けれど彼らはやっぱり、私を思い出すことはなかったし会う度に"初対面"だった。
走馬燈のように頭の中に流れるのは、ここ二年の記憶だ。ただただ現実から逃げようとしていた記憶。覚悟をしていた以上にみんなから忘れられているのが辛くて、一人で泣いていた記憶。…確かにこの環境には慣れた。他の人間とは接しない生活にも。森の奥で一人、自給自足をする毎日にも。――二年だ。二年もそんな生活をしてきた。けれど、でも……やっぱりユーリたちがいないという事実に慣れることはできなかった。


「(でも、それでもよかったじゃない。私は、ユーリたちに出会うことが出来た! みんなを幸せにして…私の正義を貫くことができた!!)」


人間は慣れる生き物だ。どんなに大切にしたい思い出だって、数年経ては新しい記憶に塗り替えられていく。消えていくんだ。あっさりと。私が生まれた元の世界のことを忘れかけているように。
でも二年前の旅は…みんなと旅したあの記憶は少しも薄れない。薄れないからこそ、慣れなかった。…きっと、覚悟が足りなかったわけじゃない。そもそも乗り越えられると思っていた考えが間違いだったんだ。――けれどこの辛さが、この孤独が、この痛みが、私の罰だ。私が受けるべき報いなんだ。
咆哮を上げたオーマから数本の触手が伸びてくる。私は魔術でそれを全て弾いたあと、懐からもう一つの武器を取り出し、無我夢中でそれを使った。


「(私がこんなに痛い思いをしているのは、世界のため? ユーリたちのため?)」


違う。違う!!
私は私のためにここにいる。この痛みから逃れるために。もう二度と、ユーリたちにあんな思いをさせないために。私が二度と希望を抱かないように!!
私は何かに憑りつかれたように改造弓の刃を振り上げた。触手はまるで粘土のように引きちぎれていく。オーマが対応出来ていないのは、私が今までこの武器を隠していたからだろう。…やっと、あのオーマを出し抜くことができた。
私に触手を引きちぎられたオーマは怒りのせいか痛みのせいか、悲鳴のような声を上げた。私は、最後の力を振り絞ってオーマの懐へと走る。…足が引きちぎれそうな感覚は、恐らく冗談の範囲ではないだろう。走ると言っても笑えるほど遅いし、全身血まみれのせいで服が重い。


「ああああああああああぁぁぁっ!!!」
「おおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」


走りながら発動させた魔術がオーマを襲う。光の雨は容赦なくオーマだけに降り注ぎ、その動きを牽制していた。それに追撃させるように濁流をぶつける。オーマは完全に動けず、ゆっくり近づく私を恨めしそうに見下ろしていた。
――これで最後だ。私はそう、ありったけの力を込めて、声を張りげて詠唱した。


「聖なる意思よ、我に仇名す敵を討てッ!! ディバインセイバーッ!!!」


真っ白な雷が、オーマの巨体に直撃する。近くにいた私にもその熱と電気が感じ取れるほどに。オーマの身体はあっという間に真っ黒になった。悲鳴なのか、ただの音なのか。どちらにせよ悲鳴とは思えない声をあげてそのまま後方へ倒れた。
術が終わったあと、残ったのは静寂のみだった。自分の荒い呼吸だけが聞こえる。戦いのせいでボロボロになった部屋は様々柱や壁、床、天井が破壊され瓦礫となっていた。
…オーマは真っ黒になったまま、動かなくなっていた。触手たちもまとめて動かなくなり、完璧な静寂だけがの残る。私は呼吸を整えないまま、身体を引きずってオーマの元に近寄った。血は止まらないままだけど、治癒術を使うほど体力は残っていない。隣にやっとのことで辿り着いた私は、黒こげになったオーマを見下ろす。
―――彼の赤い瞳は、開いたままだった。


「……小娘にしては、なかなか良い魔術だ」
「あなたも、なかなかの生命力です。……ゴホッ」


そして、彼の黒こげになった触手が、私の身体を貫通していた。
それによって喉から溢れ出た血を抑え込むこともなく、私は自分の口からそのまま吐血した。ただでさえ血塗れだっていうのに。
背中から胸にかけて、触手は見事に私を貫いていた。全身が熱くて、軽い。ぴくぴくと痙攣している身体がまるで自分のものではないみたいだった。


「…見事だ。貴様の矜持は、称賛に値する。その理由が何であれ、一人で我をここまでにしたのは貴様が初めてだ…小娘」


喉から溢れ出る熱で返答することは出来ないが、代わりに口端を精一杯上げた。
オーマの触手が、私の身体から引き抜かれる。その反動で、私が見下ろしていたオーマの身体が私の血で穢れた。力を入れることが出来なかった私は、そのまま彼の身体に倒れる形になった。
…あーあ…もしかしたらって思ったのになぁ。あれだけ追い詰めたと思ったのに、呼吸が乱れただけかぁ…。私に向けて静かに言葉を零すオーマに、私は悔しいと感じていた。…久々だな、こんな気持ち。――…でも、


「……いった…で、しょ…」
「…何?」
「…わたしは…ただでは、しなない」


今度はオーマが言葉をなくす番だった。
何故なら私の身体からパキパキという妙な音がするからだ。…驚くのも無理はない。慌てて起き上がろうとするオーマの動きを、最後の魔術で止めた。そんなに長く動きを止められるわけじゃないけど、きっと…充分な時間を稼げる。


「き、貴様…何をしている!?」
「……」
「やめろ!! 離れろッ!!」


私自身、私がどうなっているのか分からない。けれどこれからどうなるのかはわかる。…私はここで死ぬ。けれどそれはただの敗北じゃない。ただで死ぬわけじゃない。
オーマが慌てた様子で上からどかない私を攻撃してきた。背中に鋭いものが何本を刺さった気がする。けれどもう私には感覚がない。…熱を感じることもない。そうしている間にも『音』はどんどん広がって大きくなっていく。
…ああ、なんとか目的は果たせそうだ。もう魔術の効果が切れ、私も力を入れられていないはずなのに、その場から動かない…いや、動けないオーマの様子を見てそう確信した。目的が果たせた瞬間、ものすごい安心感に包まれて、私の全身から力が抜けた。
――とても、いい夢を見た。今まで、私は、とても不幸で…とても幸せだったんだ。
自然と自分の口端が上がっていくのが分かる。


「(…ユーリ…みんな…)」


あんな形だったけれど、最後にみんなと話せてよかった。
私は今まで感じたことのない満足感に満たされたまま、緩やかに瞼を閉じる。
命が消えるその瞬間、ユーリが私の前に立っている幻影を見る。幻影のユーリは、呆れた様な顔して…私が大好きな、はにかんだような笑みを浮かべていた。
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