クロム×ギムレー

※終章最終決戦の捏造注意



――――クロムさん


声が聞こえた

「死ね!虫けら共がぁ!」


――――早く


俺がよく知っている声

「クロムさん、危ない!」

「!」

頬を掠めた鋭利な闇によって意識は現実へ引き戻された

「大丈夫ですか?」

マイユニのサポートあってかその攻撃をまともに食らう事は無かった

世界の命運を分ける戦いだというのに、どうやら俺は余所事を考えていたらしい

心配そうに俺の顔を覗き込むマイユニ

そして向かいには、夕焼けを背に冷酷な笑みを浮かべるマイユニ

こいつを倒せば全てが終わる

長かった

俺からマイユニを奪おうとする闇

ルキナを苦しめ続けた悪夢

絶望をもたらした滅びの運命

これで、全てが終わるんだ

「ハハハハ、愚かしい人間共め!」


――――早く、早く私を


またその声が聞こえた

「クク…これで終いだ」

考える余地も与えぬ間に邪竜は俺達に畳み掛けた

「あれはっ…最初にみんながやられた攻撃の陣形…!」

周囲の魔力を掻き集めるように天空へ立てられた片腕

あの腕が振り下ろされたら俺達に勝ち目は無い

「マイユニ、走れ!」

退避に移行し受け身を構えた

衝撃に備え、固く目を閉じる

だがその痛みを感じることはなかった

「っ…?」

開いた視界に映ったのは、力無くだらりと垂れ下がる敵の腕

顔を歪め、まるで自分を責め立てるように恨めしげな声を挙げた

「オ、ノレエェ…マダ邪魔ヲスルカ…!」

状況を呑めないまま、様子を伺う

罠か?それとも天が俺達に賭けたのか?

「何が…起きているんだ」

マイユニもまた戸惑いが隠せない様子だった

「っはぁ…分かりません…ですが、」

全身で呼吸をするマイユニは傷や痣でボロボロだ

自らを顧みれば同じような有様で、ファルシオンを握る手には血が滲んでいる

俺達の体力もあと一手が限界ということだ

「あぁ、分かっている」

これは最後の賭けだ

俺の隣で魔道書を握り締めるマイユニ

顔を見合わせ互いに頷く

「これで…終わりだ!」

「ッサセルモノ、カ…!」

竜の本性を晒け出すもう一人のマイユニ

黒の闇と白の光が衝突したその瞬間、世界から音や風が消えた


――――早く私を、殺して下さい


はっきりと声が聞こえたのは、その一瞬の不思議な空間の中だった

「ギッ…アアアアー―――…」

僅差で貫いた敵の身体

邪竜の叫び声が天高く轟いた

その声が遠く聞こえなくなった頃、邪竜を纏う漆黒の闇は夕焼けに溶けていった

眠る様に虚空を仰ぐ異界のマイユニ

力を失ったその身体は足元から徐々に消えていった

その時、ふと視線が交わった

何か大きな責務を終えた後のような、清々とした寂しげな瞳だった


――――クロムさん


声は聞こえない

だが口元は確かにそう動き、俺に微笑みかけた

それは紛れもない、最愛の人物の笑顔そのものだった

そしてその唇は穏やかに弧を描き、ゆっくりと言葉を紡いだ

「       」

破滅を迎えた戦場

凄まじい爆風が一辺を駆け抜ける

全軍が激しい砂埃に飲み込まれた

「くっ…」

刹那

覚えの無い記憶が脳裏を過った



――――お前の、せいじゃない

――――…クロム…さん?返事をして下さい、クロムさん、ね、クロムさん、クロムさん、クロムさ……ぁ…ああ、あ赤、クロムさんが赤、赤真っ赤あああアアアアアアアアアアアア…

――――私が、殺、した、こ、ろ、し、た、ワタシガ、コロシテ、シマッタ

――――嫌だ…消え、たく…ない…ルキ…ナ…マーク、クロ…ム…さ…

――――クロムさんと、幸せになりたかった



何時か、誰かの記憶が頭の中へ流れ込んできた

現実に戻ったのは砂埃の煙が切れた頃

呼吸をするのも忘れていた

目の前に広がるのは、あの死闘があった後とは思えない程静かな夕暮れ

「…終わった…」

誰かがぽつりと呟いた

そうだ

終わった

終わったんだ

俺達の戦いが

ギムレーに、そして運命に抗う戦いが

しかし心は引っかかったままだった

夕暮れを背に微笑み消えていったあの姿に

なぜあいつは俺に微笑みかけたんだ?

なぜ俺の名を呼んだんだ?

そして俺は何か夢を見たような気がする

一瞬の中に、痛烈な叫び声のような…


「…まさか」


考え出した結果、導き出せたのは一人しかいない

だとしたら、最後にギムレーと戦っていたのは俺とマイユニだけじゃない

“あいつ”もたった一人で戦っていた筈だ

孤独に苦しんでいた

泣き叫んでいた

俺の助けを、ずっと待っていたんだ

そして俺がそれに気付けないうちに、あいつは世界からいなくなった

「っーーー」

何か言おうとするが、喉元で言葉が詰まって出てこない

出てきたとしても、もう届かない

それに…あの瞳は俺を通して、違うものを見ていた

きっとあいつは最初から俺に話しかけてなどいなかったのだろう

あいつが求めているのは俺ではない


「       」


その言葉も俺に向けられたものではない

あの寂しげな瞳に映っていたのはただ一人

マイユニを救えなかった、愚かな俺だった








『やっと、クロムさんに会える』


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