クロム×マイユニ

※「はい」選択EDその後
※少し救われない内容です


俺達は運命に打ち勝ち、ギムレーは再び長い眠りについた

少なくとも俺達の生きる時代でその姿を拝む事は二度と無いだろう

この先の未来は全て明るい光に照らされてゆく


そう思っていた


「ギムレー教祖の女め」

「ギムレー様を奪った反逆者」


それが、俺達が救った世界の出した答えだった

イーリス兵の中でマイユニの生い立ちを漏洩した奴がいたのだろう

マイユニを襲った世論

命を懸けて守った世界から疎まれる

こんな皮肉な話があるのか

どこにぶつければ良いのか分からない怒りに拳を握り締める

爪が食い込み血が出ていたが、あまり気にならなかった

せめてもの救いは、苦難を共にした戦友の態度が変わる事無く、当の本人であるマイユニもまた笑顔を絶やさず平和な日常に溶け込んでいる事だった

正式に王の座に就いてからは膨大な責務に追われ以前の様にマイユニと話す機会も減った

だからこそ、毎日を笑って過ごすマイユニを見る事が俺の不安を打ち消す唯一の手段だった


だがその日、城にマイユニの姿は無かった

侍女や使いに尋ねてもその行方を知る者はいない

こんな風にマイユニが俺に黙って姿を消す事は今まで滅多に無かった

あったとしてもそれは女性の諸事情だとか…

伝言も無ければ置き手紙も無い

嫌な予感がする

ドクンドクンと跳ねる心臓の音

震える指先

冷や汗が全身を伝う

向かいの部屋、隣の部屋、その更に隣の部屋、何処にもいない

調べる部屋が減るにつれ増してゆく焦燥感

別に無許可の外出自体は禁じていない

もしかしたら城下に急用があって伝言する間もなく飛び出していったのかもしれない

それか城内の花瓶でも割ってこっそり外に逃げているのかもしれない

だが胸騒ぎがする

まるでこのままずっと帰って来ないようなーーー

ゾッと冷える背筋

とうとう居ても立っても居られず、引き止める兵士達を押し退け町へ駆け出した

すれ違う民は俺を世界を救った聖王と崇めた持て囃したが、生憎俺は姉さんの様にそれに応える余裕も無い

…元から愛想笑いなど出来ないのだが

それに世界を救ったのは俺ではない

マイユニだ

動悸から来るものなのか単に走り疲れただけなのか、呼吸は荒く乾いたものとなっていた

市場を走り抜け少し広い場所に出たのは町外れの森林

誘うように風が背中を押す

それに身を任せ目の前に広がる林へ足を進めた

木々を避け歩き荒い息を整える

林を抜け、開けた視界には広大な草原があった

俺達が初めて出会った場所


「…マイユニ…」

そこに、求めていた姿はあった

新緑の光がマイユニに淡く差し込む

その存在を認識した瞬間、漸く生きた心地が再生し始めた

マイユニは中央の岩に腰掛け、いつものように戦術書を読んでいた

深く一呼吸し、一足歩み寄った

「あ、クロムさん」

砂利を踏む音にこちらを振り向くマイユニ

微風に吹かれてなびく髪を耳に掛け、俺に微笑みかけた

最近二人きりで面と向かって話していなかった所為か

マイユニの表情に違和感を覚えた

「聞いて下さいクロムさん。私、今までに無い策を考えついたんです!」

マイユニはこんな笑い方をする奴だったか?

「これでまた自衛団の皆さんのお役に立てれば嬉しいです」

微笑みかけるマイユニ

だが俺はその乾いた笑みに応える事無くその瞳を見据え続けた

「クロムさん、聞いてますか?これは必勝ですよ。絶対皆さんのお役に立てます!」

張り付いた笑顔

畳み掛けるような話し方

ぎこちなさが目立ち過ぎて、何かを誤魔化そうとするマイユニを睨む様に見つめ続けた

すると次第にマイユニの笑顔が消えてゆく

そして自嘲気味に小さく笑い、本へ顔を反らせた

「これで皆さんの、お役に…」

俯く顔

刹那、何かがマイユニの頬を伝い書物の紙面に落ちた

ぽつりと落ちたその滴は文字に滲んで消えてゆく

心がズシリと軋んだ

そうだ、俺は分かっていた筈だった

誰よりも人の痛みを理解し、誰よりも世界の平和を願い、何よりも世界の命運の責任を背負っていたマイユニが

自身を犠牲にしなかった事を後悔している、と

「…っ」

まだ俺に気付かれていないと思っているのか

顔を隠し押し殺すように震え泣くマイユニ

蹲る身体を出来る限りそっと、力強く抱擁した

「…ごめんな、さい…」

涙に紛れ弱々しい声が聞こえる

何故マイユニが謝らなければならないのか

だが何故マイユニが謝ったのかは分かる

だからこそ、ただ抱きしめる事しか出来なかった

「時々…私は、選択を間違えたんじゃないかって思うんです」

溢れるマイユニの本音

だがもう一つの選択は、俺には考えられなかった

「…死を望むのか?」

返事は無かった

「死ぬな」

半ば命令だった

「お前が死にたがるならば、城の牢屋に監禁してでも止める」

脅しでは無く、割と本気の話だ

「舌を噛もうものなら、猿轡を噛ませてでも止める」

それもマイユニを繋ぎ止めるには致し方無いと本気で思った

「…嫌ですよ、そんなの」

キュッと両手で俺の服を掴むマイユニ

冷静なところは変わり無いようで安心した

「俺も同感だ」

マイユニを一生大切にしたい

それこそ、もう二度と血を見るような場所へ連れて行きたくはない

だがマイユニが死ぬのはそれ以上に耐えられない

「生きてくれ…」

願うように、強く抱き締めた

「…」

俺の肩へ凭れ掛かるマイユニ

涙を含んだ吐息が僅かに聞こえる

「…ルキナに…たくさん思い出を、作ってあげたい…」

風の音に紛れた小さな願い

「生まれてくるマークにも、会いたい…」

俺と同じ想いがマイユニの唇から漏れる

「クロムさんと、生きたい」

その声は風に攫われる事無くはっきりと俺の耳に届いた

「クロムさんが…大好きなんです」

精一杯抱き締め返すマイユニの腕

俺を見上げるマイユニの表情に偽りはない

そして少し赤みを帯びた瞳の先が俺を見据えていた

…心配するな、マイユニ

「俺が守ってみせる…必ず」

世界が何と言おうと

ルキナとマークとマイユニのいる未来を

お前と共に歩もう

お前の選択は間違えじゃなかった、正しかったと

幸福をもって証明しよう


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