クロム×マイユニ

寝苦しい

うっすら目を覚ませばそこにはマイユニの姿があった

俺に跨るマイユニの身体

だがそれは決して甘い雰囲気ではなかった

嗚呼、道理で寝苦しい訳だ

「セイオウ…コロ、ス…」

俺の喉元に伸びる手

生気の無いマイユニの無表情

漆黒に染まる目の奥に見えた涙

救えない自分に、遣り切れない思いが襲い掛かる

元々力は俺の方が上だ

首を絞める手を掴み無理やり状態を起こす

そして寝返りを打つようにマイユニを押し倒し返した

近くにあった魔道書に伸びる手

だがそれより早くその両手を頭上に押さえ付けた

魔法を使われたら敵わないからな

「…っは…ぁ、…は…」

静寂を取り戻した部屋には微かに俺の吐息が響いていた

室内をぼんやり映し出す月明かり

たった一瞬の出来事だったのに、心臓は未だバクバクと緊張状態にある

冷や汗が額を伝ってマイユニの頬に落ちた

だが、その頬には既に違うものが流れ落ちていた

「…う…ぅ…っ…」

朧げに反射し闇の中光った透明な筋

「私…また、操られて…」

久しぶりに聞く弱々しい声だった

一捻りにしていた両手首をそっと離す

マイユニの手が微かに震え始めた

「クロムさんを殺すくらいなら…
死んで、しまいたいです…」

次第に擦れ小さくなる声

マイユニが、死ぬーーーー?

マイユニのいない世界を僅かに想像した

…駄目だ、想像出来ない

そんなもの耐えられるわけがない

そう思った時には、既にその双肩を掴んでいた

「しっかりしろ、マイユニ!お前は悪くない!」

俺が大丈夫だという事が伝わらないのがもどかしい

くそ、何故マイユニが苦しまなければならない

「マイユニ!」

「…!」

身を縮ませるその身体を、全身全霊で抱き締めた

「クロム、さん…?」

少し驚いたような顔で俺を見上げる

「マイユニ、聞いてくれ。
俺は幼少の頃、崖から落ちたことがある。だが死ななかった」

「は、はい?」

急に何を言い出すのか、と顔に書いてある

それでも構わず話を続けた

「それだけじゃない、一人で国境警備の視察をした時ろくな防寒もせずフェリアの雪山に迷い込んで遭難したこともある。だが自力でイーリスに帰還した」

「そ、それはまたすごい経験ですね…」

「まだあるぞ、最近だと敵に不意打ちを食らって矢が3本刺さり、脇腹を切りつけられた。だが3日で完治した」

「なんだかすごい生命動力ですね…」

「そうだ、おれは生命動力が強い」

まくし立てる俺に困惑しつつ、感心するマイユニ

「だから俺は死なない」

再び強くマイユニを抱きしめた

「マイユニ」

マイユニ、マイユニ

大切な存在を噛みしめるようにその名を何度も呼ぶ

マイユニがいるから俺は強く生きようと思える

マイユニと共に生きたいと望むから、俺は生きる努力を惜しまない

だから俺には絶対的な自信があった

「殺せるものなら、殺してみろ」

きょとんとした顔で俺を見つめるマイユニ

しかしその口端は少しずつ緩んでいった

「…ふふ、それじゃあ確かに、無理ですね…」

少し涙の残る穏やかな微笑み

そっと俺の背中に回るマイユニの両腕

互いの存在を噛み締め合うように、その後暫くそうしていた


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