クロム×マイユニ

お互い好きだったのに11章のクロム強制結婚によってすれ違う二人の話
略奪愛です。



教会の扉を開けば、純白のドレスに身を包んだマイユニが祭壇の上に佇んでいた

「クロムさ、ん…?」

十字架の形をした窓から差し込む淡い光がマイユニの後光となって俺を照らす

それが眩しくて少し目を細めた

二人きりの空間に、明らかに動揺したマイユニの声が響く

式場の床にはまだ汚れていない花弁や紙吹雪が落ちており、つい先程まで人気があった余韻を残していた

まるであの男とマイユニを祝福するかのように

「ど…どうして…此処に」

マイユニの声は震えていた

まぁそれもそうだろう

本来、俺が此処にいるのは可笑しな話なのだからな

「俺だけ呼ばれなかったというのは不愉快な話だな」

俺は招待客としてさえマイユニの視野に入る事は無かった

睨むようにマイユニを見据えればビクリと震える細い肩

「わ…私程度の身分で王族の方を招くのは失礼かと思って」

「リズは呼んだのにか」

「…っ」

マイユニが困ると知っていながら敢えて口端を吊り上げて笑った

黒いものを腹に抱えたままゆっくりマイユニの元へ歩み寄る

何の躊躇いも無く新郎新婦の通った道を踏みしめマイユニを目指し真っ直ぐ進んだ

マイユニは何も出来ず、ただ立ちすくんでいた

俺を突き動かすのは俺を呼ばなかったマイユニへの恨み辛みでは無い

寧ろ呼ばれたところで俺は国家事業が忙しいだなんだと理由付けて行かなかっただろう

見たくなかった

マイユニが他の男と誓いを交わすのを

接吻を交えるのを



姉さんが死んでイーリスの国民は俺に世継ぎを急かした

民の要望にはなるべく迅速に対処してきたつもりだったが、これだけはいつまでも保留にしていた

城には貴族の令嬢や富豪家の跡取り娘ばかり載っている見合い候補の書類が何十枚も送られてきた

その中にマイユニはいない

一方城下では婚約者が決まった、そろそろ挙式するという根も葉もない噂が広まっていた

溜め息の籠もった執務室

窓を開ければ強い風が室内へ吹き込む

当然のように見合いの紙が散らばったが、拾う気は起きなかった

「もう…クロムさん、国王なら書類の管理くらいしっかりして下さいよ」

その声にハッと振り返る

執務室の扉口には俺が求めていた人物が立っていた

動揺する俺を余所に書類を拾い集めるマイユニ

「…そういえば、街中で噂になってましたよ」

最後の一枚を拾い俺に差し出す

そして柔らかく微笑んだ

「婚約…おめでとうございます、クロムさん」

束を受け取ったその時

少し触れたマイユニの左手薬指で、真新しい指輪が光った

婚約は作り話だ、まだ決まったわけじゃない

そんな訂正をすることすら忘れた

俺の想いを伝える前に

マイユニは既に他の男のものだった

「…あ、…あぁ。そう、だな」

それから俺が噂を追認するように婚約をあっさり決めたのは、間も無い話だった



「そんな格好のまま一人でフラついているという事は、あの男との幸せの余韻にでも浸りに来たのか?」

「そっ、そんな事は…!」

数センチ離れた所で足を止める

率直な感想を言えば、間近で見たマイユニは綺麗だった

このマイユニと愛を誓った男の事を思うと再び苛立ちが込み上がる

そして感情のまま

「ーーきゃ…っ」

返事を聞く前に、祭壇の上にマイユニを押し倒した

床に広がった真っ白な花嫁装束

「マイユニ。お前を奪いに来た」

俺は今、許されない事をしようとしている

だがマイユニが俺のものになるならばそれでも構わない

神に堂々と皮肉の誓いを立ててやる

「好きだ」

マイユニに考える余地など与えない

目を反らす事さえ許してたまるか

「好きだ」

髪、瞳、口、耳、全てに

「マイユニ、好きだ」

今更なんの意味も持たない俺の想いを何度もマイユニに浴びせる

マイユニの瞳は大きく見開かれていた

強張った身体から力が抜けるのが手にとるように分かる

「…好きだ…」

やがてその瞳の焦点は歪み次第に揺れ動き始めた

動揺したのは寧ろ俺の方だった

俺の目に映ったのは

ぽろぽろと零れるマイユニの涙だった

「…クロムさんに…見られたくなかった…」

透明な筋がマイユニの頬を伝い落ちる

「私だって…クロムさんが大好きだったのに…」

一瞬、呼吸が止まった

か細い声だったが俺にはその言葉がはっきりと聞こえた

「私に…、国王の妻になる資格なんて…身分なんて無いんです」

唇を噛み締め堪え切れていない涙を押し込む

だが声は震えたままだった

「あの書類の束を見て…思い知ったんです…」

書類が散らばったあの日

風の強かったあの日の、あの時のマイユニの姿をもう一度思い出す

一度も顔を上げず一枚一枚丁寧に紙を拾い集めていたあの後ろ姿を

拾う度僅かに震えていたあの手を

最後に見せたあの寂しげな笑顔を…


「クロムさんが婚約したと聞いて…クロムさんを諦めて取り付けた結婚だったのに…。もう、遅いんですよ…クロムさん」

マイユニは力無く声を発した

まるで俺を『過去の思い出』に放り込んだように

だが悪いが、俺は諦めが悪いのでな

やっと見えたマイユニの本音をこんなところで失うものか

まだ間に合う筈だ

仮に遅かったとしても、奪ってやる

何度だって奪い返してやる

マイユニの涙を指で拭い、その薬指に既に嵌められた指輪を外した

鎖は断ち切った

さぁ、あとは新たな鎖を付けるだけだ

渡せなかった指輪はマイユニと俺を繋ぐ鎖へと成り代わる

マイユニの薬指にぴったり合うイーリス王家の証の刻まれた指輪を

俺を

その心に刻みつけて

「マイユニ…愛してる」

目尻に涙を溜めてマイユニは頷いた

俺の背に回る花嫁の腕

深い口付けを合図に、神の前で俺とマイユニは禁忌を犯した


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