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質問3。今回の試合に向けて取り組んでいることは?」
「さっきからかったるい質問ばっかりで嫌になるんだけど」

都のプリンスもといわがままボーイの成宮鳴は面倒くさそうにため息をついた。それもこれも新聞部の取材だから仕方ないとは思うのだが、成宮鳴はどうやら退屈らしい。

「もっとさぁ、面白い質問はないわけ?」
「え〜。じゃあバッテリーを組んでいる原田先輩に対して思ってることは?」
「そんなん正直に言ったら俺雅さんに殺されるよ!」
「何を思ってんだか」

成宮鳴の機嫌は少しだけ良くなったが、「ほかにないの〜」と退屈そうに呟いた。これはもう早めに切り上げたほうがいいな。それじゃ最後に女子から要望があったものを聞いておくか。

「彼女はいますか?」
「いませーん」
「いないんだ」
「なに?安心した?」
「えっと次はー」
「無視かよ」

ねえねえ、とシャーペンの上の部分で私の頬を触ってくる。パーソナルスペースなんて気にせずにこうやって触れてくるところ、心臓に悪い。

「はーい。俺も質問でーす」
「えっ」
「彼氏いますか〜」

シャーペンをマイク代わりに私に近づける成宮鳴に私は吃驚して声が出なかった。私が取材してたはずなのに、なぜ私が質問を受けているの?「い、いない」成宮鳴はなるほど、と頷いた。

「みょうじは彼氏いないんだね」
「あの、成宮くん?」
「野球部にみょうじのこと気になってる奴いてさ」
「……そうなんだ」

てっきり成宮くんが気になっているのだと思って落胆してしまった。だけどそれがバレては困るので必死に平静を装う。胸が痛むのを今だけは知らないふりをした。

「じゃあ次の質問」
「えっまだあるの?」
「好きな人はいますか?」

まだ続けるのか、と思っていた矢先、やけにプライバシーにぶっこんだ質問をして来たのだ。まさかそんな質問が来るとは思わず動揺する私に成宮くんは笑った。「動揺しすぎでしょ」歯を見せて笑う成宮君に思わず胸がときめいてしまう。

「か、からかわないで」
「ごめんごめん」
「そういう成宮君は?好きな人はいるの?」
「いるよ」

成宮君の大きくて真ん丸な目と目が合った。一人気まずく感じてすぐに目をそらす。「そっか…」ショックを受けているのが嫌でもわかった。今の私は新聞部の代表として成宮君に質問しているのに、私情を挟むなんて最低だ。バレないように目を細めて無理やり笑みをつくる。

「じゃあ、かっこいいところ好きな人に見せなきゃね」
「そうだね。かっこよくて惚れちゃうぐらいね!」

好きな人が羨ましい。成宮くんが本気を出せばその子は落ちるに決まっている。本格的に失恋だ。まだまだ聞きたいこともあったが私の胸中は取材どころではなく、ものすごく荒れている。私情を挟まないようにとは思っていたが、もうだめだ。私のライフは0ポイントである。本当に聞きたいことは最初に聞いていたらからもう切り上げることにしよう。

「それじゃあ、そろそろおわろっか。途中から脱線しちゃったし」
「あ、待ってよ」

取材用の質問事項が書かれたプリントをまとめて立ち上がると、成宮君に腕を掴まれた。上目遣い気味に私を見る成宮君にまたしても胸が締め付けられる。

「好きな人、いるのか聞いてないんだけど」
「えっ、だってあれはからかって…」
「本気だよ」

成宮君は腕を離し、立ち上がる。一体何が起こっているのか分からずしどろもどろになるが、そういえばさっき私のことを気になっている部員がいると言っていたことを思い出した。

「ぶ、部員思いなんだね…」
「……」
「い、いたんだけど…。失恋したかな……」
「えっ、まじ?」

失恋の部分は言うべきではなかったかもしれない。成宮くんは別に興味がないんだし、いたとだけ伝えれば良かった。先ほどの成宮くんのいる宣言を唐突に思い出し目の下が熱くなる。ああもう、このままだと泣いてしまう。

「じゃあ俺チャンスじゃん!」
「………え?」

つい顔を上げてしまった。涙が今にも出そうな私に対し成宮君は「ラッキー」と機嫌よく鼻歌を歌っている。わけが分からなくて、「どういうこと?」と震える声で聞く。成宮くんはふふんと鼻を鳴らした。

「みょうじのこと気になってる部員って、俺のことだから」

開いた口が塞がらないとはこのことだった。涙は引っ込んだが、じわじわと顔全体が熱くなる。目を合わせるのが恥ずかしくて俯いた。

「…か、からかわないでって……」
「だから、本気だって」
「………」
「そんな顔真っ赤にされたら、いけんのかなとか思うんだけど」

ハッとして顔を上げると、「耳まで真っ赤なんだけど」と楽しそうに笑った。こんなことって、こんなことって。私の好きな人は貴方です、なんて言ったら成宮くんはどんな顔をするだろうか。

19.0827(20.0817:再録)
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