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ある晴れた日、外でのんびり絵を描くのもいいと思いイーゼルと画用紙、その他必要なものを持って中庭に出た。麦わら帽子を先生に貸してもらい、いざ書き始める、…といっても私はただのしがない美術部員なのでそんな簡単にぽんぽんと絵は出てこない。
青色が好きなので、よく空の絵を描く。今は快晴だし、また空を描くのもいいと思うが、やはり何かパンチが必要な気もするのだ。
「うーーーーん…」
画家並みに悩んでいるのではないのだろうか。持ってきた絵の具と周りを見つめて、何かないだろうかと頭をひねる。
気分転換に外で描くのもいいと思ったのだが、正直そよ風も吹かない無風の中での真夏はキツイ。汗もダラダラ流れてタオルが追いつかない状態だ。一応影のあるところを選んだけど暑いものは暑い。よし、涼しい屋内に帰ろう。荷物をまとめていると、茂みの方からガサガサと音が聞こえた。猫か何かだろうか。
「ん!?」
違った。普通に男子だった。しかも野球部だ。しかし野球部が何故ここにいるのだろう。
「ここらへんに涼しい休憩所があると聞いたんだけどよ…」
「あ、ここなのかな」
影がある場所といえばここぐらいしか無い。「そこか!」と言って走ってやってきたが、やはり涼しいとは言えない。
「うーーーーん…」
「涼しくないでしょ」
頭を抱えて「なんでだああああ」と叫ぶ彼に持っていたうちわで扇いだ。わざわざ探しにきたのだというのなら無駄な時間を使ったと言っても過言ではないだろう。
「残念だね沢村くん」
「ん?どうして俺の名前を…あ!!!お前は同じクラスのみょうじ!!!」
「気づかなかったんかい」
「だって帽子被ってるしよー」
麦わら帽子を目深にかぶっていたせいで顔が見えなかったらしい。「たしかにねえ」納得した私はうちわで扇ぐのを続けた。
「おー涼しい」
「わざわざ探しにきたの?」
「おう!」
「面白いね沢村くんって」
「そうか?俺はいかにも画家という感じの装いと道具を持っているお前のほうが面白いぞ!」
「うるさいよ」
これで雰囲気出してるんだよ、と言ってうちわで軽く頭を叩いた。へへへと笑う沢村くんには汗が伝っている。私は予備のタオルを出して渡した。
「ん?なんだこれは」
「どっからどうみてもタオルじゃん」
「なんで俺に?」
「汗出てるから」
そうか!ありがとう!沢村くんは私のタオルで顔に伝う汗を拭った。
「いいやつだな!画家のみょうじ!」
「へんな呼び名つけるのやめてくれるかな」
「何描いてたんだ?」
「えーーーー、特に。青が好きだから青を使った絵を描きたかったんだけど上手く思いつかなくて」
「ほー。ま、聞いても俺には分からんがな!」
がっはっは、と将軍みたいな笑い方をする沢村くんにため息をついた。でも、沢村くんって明るくていいなあ。元気をもらえるっていうか、なんだか。
「夏っぽい」
「ん?」
「沢村くんって夏っぽい」
「おお!本当か!」
「うん。モデルにしていい?」
「おお!いいぞいいぞ!ただ使用料は…」
「このうちわとタオルあげるからそれでもいい?」
「むむっせこいなお前……」
まあ冗談だけどな!やはりガハガハ笑う沢村くんにありがとうとお礼を言った。
沢村くんは休憩が終わるからと戻っていった。私も暑いから屋内で下書きでもしよう。イメージは浮かんだので今度こそ荷物を持って移動をした。
校内に入る前にグラウンドの前を通った。たくさんの生徒の数に沢村くんは見つからないだろうと思っていたが、沢村くんは容易に見つかったのだ。
私の中の夏、それは沢村くんなのかもしれない。
...
「楽しみだなぁ俺の絵!!」
「私の絵だけど」
「モデルである俺を使った絵なんだから俺の絵といっても過言ではないだろ!」
楽しみにしている沢村くんを美術室に呼び完成した絵を沢村くんに見せた。
「……俺は?」
「えっ、この青色の部分」
「原型留めてないぞこれ!!」
「まあ人の形はしていないけど」
たくさんの青の種類を使って、沢村くんを描いてみた。たくさんの時間を要したし、たくさん悩んだ。でもその分愛着のある絵になったのだ。
「人生で一番沢村くんのことを考えてたよ」
「えっ」
「そうしたらこんな絵に」
「お前は俺のことこう見えてるのか…」
「超いいじゃん」
特にこことかコバルトブルーを使ってね…とぐちぐち文句を言う沢村くんを無視して説明を始める。
「とにかく、私の好きな色をふんだんに使って描いた絵だから、すごく好きな絵になったよ、ありがとう」
「おっ、おう!へへっどういたしまして!」
「それでさ」
「ん?」
私の沢村くんの肩を掴んだ。ふむふむなるほど、肩幅はいい感じだし、胸筋はどうだろう。
「いやまて、何してるんだ」
「いやぁー。私これ描いてから沢村くんのことが気になって気になって」
「えっ」
「お願い。今度は体の隅々まで描きたいの…」
「…そ、それはつまり」
「脱いでくれない?」
「脱げるかっ!」
顔を真っ赤にしてぷんすか怒り、どすどすと音を立てて帰っていく沢村くんを慌てて追いかける。
「待ってー!」
「せっかくドキドキしたのに!ドキドキ損だ!」
「大丈夫、悪いようにはしないからー!プライバシーは守るからー!」
「だいたい俺が脱いだところで原型は留めてないんだろ!」
「いやいや今度は人型だからー!」
沢村くんを説得するのにはまだまだ時間を要するようだ。「沢村くーん!」沢村くんは暑いのかわたしがあげたうちわを扇ぎながら教室へと戻る。
「今ならうちわもう一つプレゼンツ!」
「これで十分だ!!!」

19.0804(20.0817:再録)
title by さよならの惑星

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