甘い甘いこのチョコに
私の気持ちを込めてみた
甘いチョコが奏でるもの
地球にはばれんたいんでーなる女の子が好きな男の子にチョコを贈るという特別な日があるらしい。姐御からその話を聞いたのが二日前。誰か好きな人いる?と聞かれて浮かんだのが、いつも喧嘩ばかりしているサドだった。
姐御には逆らえなくてその事を話すと、「じゃあチョコを作らなきゃね」と意気込む姐御。何故か私がばれんたいんにサドにチョコを渡すという話になっていて、まあいい機会だと思いその提案に賛成した。
アイツはきっと甘いのが苦手だ。前にブラックのコーヒー飲んでたし…。
姐御は勘が鋭い。「きっと甘いものは苦手よね」と私の心を読んだように困った表情を浮かべる。すると、そんな私達の話を聞いていたのか「お酒の入ったチョコはどうですか?」と新八が口を挟んだ。
確かにお酒の入ったチョコならアイツは食べてくれるかも知れない。私は張り切って作業に取り掛かった。
自分が初めて手作りしたお酒入りチョコレート。姐御は手伝えなくて残念そうだったけど姐御が手を出した時点で地球の食べ物じゃなくなりそうだし、何よりアイツには私が一から作った手作りチョコを渡したかった。
そして、この想いを素直に伝えるんだ。
2月14日バレンタインデー。女が好いた男に想いを伝える絶好の日。 そんな中、神楽はそわそわしながら万事屋を出た。銀時はいつもの散歩だろうと特に心配した様子はなく、新八はこっそりと神楽に「頑張れ」と応援メッセージを送った。神楽は大事そうにチョコを抱え、また笑顔だった。
喧嘩じゃなく、普通に会話ができる。自然と神楽の口元が緩んでいく。
神楽が行った先は公園。毎日公園のベンチで寝ている沖田を挑発して戦いが始まるからだ。しかしそこに沖田の姿は無く、神楽は公園を出て屯所に向かった。
屯所の近くに来た瞬間神楽はあんぐりと口を開けて絶句する。 ずらりと並んだ行列。しかも全員女の子。手には綺麗にラッピングされたチョコレート。その行列の先には山崎が忙しなく働く姿があった。チョコを受け取っては箱に入れの繰り返し、箱には山積みになった大量のチョコ。その箱一つ一つに隊士の名前が書いてある。その中で一際目立つのが土方と沖田の箱だった。
土方の箱は二つを越え、沖田の箱も三つ目に入ったばかり。チョコ一つ一つが綺麗にラッピングされていて、ふと神楽は自分のチョコと見比べる。
ラッピングなんかよれよれで、味は初めて作ったからいい出来とは到底思えない。
思わず唇を噛み締めた神楽。悔しさがそこからじんじんと伝わってくる。 沖田には沢山チョコがある。しかも綺麗で味のいいやつ。こんなチョコじゃ沖田に食べてもらえない。神楽はくるりと踵を返した。
「あれ、もしかしてチャイナさん?」
チョコの受け取りに追われている山崎が神楽の存在に気付いた。帰ろうとしていた神楽を半ば強引に屯所に招き入れる。女の子達の羨望の眼差しが神楽は痛かった。
中に入ったのはいいけどこんな下手くそなチョコは渡せない。けど今ここから出たら女の子達の視線が痛いし……
そう神楽が悩んでいると、土方が暗い面持ちで歩いてきた。
「多串君?」
「あ?て、お前は万事屋んとこの…」
「どうしたネ?」
土方を悩ませている理由が二つ。一つは外にいる女の子達が持ってきたチョコを食べないといけないから、これに関して土方は「マヨネーズをかければ問題ねェ」と表情を歪めながら言ったが、もう一つの理由が土方を特に悩ませていた。
それは、朝から沖田が不機嫌だということ。話し掛ければ物を投げ付けられ、まるで子供のようだと。
これじゃあ見回りにも行けれねェと土方は溜め息を吐きながら呟く。
土方が去って行った後、神楽はきっと沖田は今の状況を知らないんだ、沖田に沢山チョコが来てることを。神楽は急いで沖田の部屋に向かった。
「いた……」
沖田は部屋の前にある縁側にぼーっと座っていた。 音をわざとたてながら近付くと驚いたように沖田は振り返る。
「チャイナ」
「よぉサド。さっき多串君から聞いたネ、お前朝っぱらから不機嫌なんだってナ」
「…あのクソ土方」
「そんなお前に大ニュースネ。なんと、可愛い女の子達がお前のためにチョコ作って来てたアル。今、ジミーが忙しそうに回収してたネ。良かったアルなチョコが貰えて」
チョコが貰えなくて不機嫌だったんダロ?
神楽は無理やり笑顔を作って明るく話す。けど、沖田の表情は変わらぬまま。普段表情を変えない沖田が寧ろ、更に表情を暗くした。
「サド?」
「知ってる、そんぐらい。だから最悪なんでィ」
神楽は意味が分からず首を傾げた。
「俺は甘ェの苦手だってェのに……」
「でも、女の子達が一生懸命作ったチョコアル。気持ちのこもったチョコアル。食べてあげないと……」
言葉ではそう言ってる神楽だが本当はその逆で、本当は自分のこの下手くそなチョコを食べて欲しかった。不味いと言われたらショックだけど、自分で食べるよりはましだろうと。でも、それさえもいけないような気がして……
神楽は思わず後ろに隠していたチョコをぎゅっと握る。ぐちゃぐちゃだったラッピングが更にぐちゃぐちゃになっていく。
微かに聞こえた紙の擦れる音。それを沖田が聞き逃すはずがなく
「チャイナ、お前が後ろに隠してるもん何でさァ」
ドキリと神楽の心臓が跳ね上がった。恐る恐る差し出せばラッピングが更にぐちゃぐちゃになった手作りチョコ。同時に沖田にチョコの存在がばれてしまった。
「これは…その……」
「チョコ、だよな?」
「………ウン」
ぐちゃぐちゃ過ぎて笑うだろうか、咄嗟に目を瞑りしばらくして目を開けると真剣な表情の沖田。
「サ、ド?」
「チャイナ…それ」
俺にくれねェか?
一瞬耳を疑った。沖田がこのチョコを欲しいと言ったのだ。神楽はしきりに瞬きをし、一応これはチョコだと伝えると、当然のことのように「知ってる」と返す。
お互いの間に何ともいえないような空気が流れていく。神楽は頬を赤く染め、今しかないと覚悟を決めた。
「はいアル!言っとくけどそれは多串君とかゴリとかジミーとかに作ったんじゃないからナ!お前のために作ったんだからナ!勘違いすんなヨ!」
恥ずかしすぎて俯きながらチョコを沖田に差し出す。神楽には分からないが沖田は普段滅多に表さない微笑を浮かべ、チョコを受け取った。
「ありがとう……神楽」
思わず顔を上げた神楽。と同時に沖田は神楽を力一杯抱き締めた。突然の事で動揺していた神楽だが恐る恐る沖田の背中に手を回した。 強く強く、お互いを感じるように抱き締め合う二人。
「チョコ……嫌いじゃなかったのかヨ」
「俺は、ピンク頭ででかい犬飼ってて毒舌で大食いで怪力で酢昆布大好きでいつも俺と喧嘩してる奴の心のこもったラッピングよれよれのチョコなら食えるんでィ」
「ぷっ、どんな言い訳アルか」
沖田の不機嫌も吹き飛んでいき、おかしくなって二人は笑いだす。幸せそうに、甘い雰囲気で。
沖田は縁側で神楽から貰ったチョコを食べ、神楽は隣でそれを満足そうに眺めていた。
好きだと言葉で表さなくてもチョコに注がれた沢山の想いがきっとそれを伝えているだろうから。
後から聞いた話では、沖田の不機嫌だった理由。それは、神楽に会いたいという気持ちが募って湧いた感情だったらしい……
小さな卵の李音様から頂きました。 神楽ちゃん可愛いです! バレンタインフリー文ありがとうございました☆
2010.02.20
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