いらいらいらいら。

「…沖田さん、一年の子が呼んでます」

「またかィ。今日で何回目なんでィ」

「七回、です」

新八の口から出た言葉にいらいら。

「ふーん、まぁさっさと終わらせて来まさァ」

「総悟…もうほっといたらいいんじゃないか?」

私を気遣うゴリラにいらいら。

「いや、ちゃんと行ってやんないと。じゃ、神楽ちょっと待ってて下せェ」

…颯爽と駆けていく「彼氏」にいらいら。
もう頭の血管が全て破裂しそうだ。

「…神楽ちゃん、」

新八が、私を気遣う様に声をかけてきた。そんな声にさえいらいらが募る。

「まぁまぁ、総悟も全部断るんだからそんなに気にする事もないさ!なあ義弟よ」

「ゴリラの義弟になった覚えはねェェェ!」

後ろで煩い二人に、更にいらいらした。

「…もう、帰っていいヨ。私、一人で待ってるアル」

「でも、」
「わかった。神楽ちゃん、…あんまり、溜め込まないでね」

何かいいたげなゴリを引っ張っていく新八にまで、そんな事を言われてしまった。

「―別に、怒ってなんか」

そう、怒ってなんかいない。でも、いらいらしてるのは周りには伝わっていたみたいで。
唯一伝わっていないらしいのは、私の一番近くにいるはずの「彼氏」だけだった。

私達は今日で付き合って一ヶ月を迎えた。幸せな気持ちで、いつもの様に二人で学校に行って、靴箱へと向かったらそこだけいつもとは違ったのだ。
―総悟の靴箱には、溢れんばかりのラブレター。

思えばこれが悪夢の始まりだったのかもしれない。

ラブレターは総悟がその場で全て引きちぎったものの、休み時間毎に綺麗な女の子が総悟に告白しに来た。私と付き合い始めてからは全く無かったのに、今日いきなり。

私は校内放送で告白されたものだから(今思えば凄まじく恥ずかしい)、全校生徒が私達の記念日を知っているはずなのに。…いや、知っているからこそ、か。

全校の女子生徒の嫉妬、憎悪を感じ取って一人、自嘲気味に笑った。

「神楽!」

向こうから、総悟が走ってきた。こんな時でもその姿にきゅんとしてしまう私は、どうしたらいいのだろう。

「待たせてすまねェ。さ、帰ろーぜィ」

たたた、っと走ってきた総悟を一瞥して、私は腰を上げた。差し延べられた手は握らず、一人で先を歩く。

「…神楽?どうしたんですかィ」

「別に、なんでもないアル」

可愛くない女だってわかってる。でも、今の私には総悟の手を握ることは出来なかった。…黒い感情が、繋いだ手から流れ込んでいきそうで。

だからすたすた先をあるいてたのに、突然腕を捕まれて後ろに強い力で引っ張られた。当然、私は後ろに倒れ込む形となって、気づいたら総悟の腕の中に収まっていた。

「―離す、ヨロシ」

「やだ」

「あついアル。早く離せヨ」

「嫌でィ」

「いい加減に…んむっ!?」

押し問答に耐え切れなくなって顔をあげたら、突然唇が総悟のそれに塞がれた。無理矢理口を開かされ、問答無用とでもいうように舌が私の中を蠢いた。

「…はぁ…っ」

やっと唇が離れたと思ったら、両手で顔を挟まれて。総悟の赤い瞳が、私を貫く。

「ごめん、…今日、記念日なのにこんなんなっちまって」

「…っ別に、なんとも思ってないアル!」

「ほんと、ごめんな」

「だから…っ」

辛そうな顔をして謝るものだから、私まで辛くなって思わず涙が零れてしまった。それを見て、総悟の腕が私を包み込む。

「…嫉妬、してたんだろィ?」

「…っ」

耳元でそう囁かれて、もう嘘がつける筈かなかった。

「なん…でっ、わかった、アルカ」

「あたりめーだろィ、お前の事しか見てねーんだから」

「…答えになってないアル」

「いや、これで十分でさァ」

嫉妬してくれて嬉しい、と笑う総悟に少しばかり殺意を覚えた。けれど、それと同時に悔しいけど少し嬉しくなってしまったことは、隠せなかった。

「神楽、…俺は神楽しか見えないんでィ。神楽以外の女なんて知ったことじゃねェ。ただ、神楽がいればいいんでさァ」

「…っ、」

「だから、…これからも、よろしくな」

「―はい、アル」

―真剣な顔で真剣な声で恥ずかしげもなく、こんな事を言ってのけるこの男しか私の瞳に映らないことは、今はまだ言ってあげないでおこう。







I can love only you
and
you can love only me.

(どうにもならないほど溺れてるよ)





Sweet*darlingの皐月様より相互記念小説を頂きました!
素敵な小説ありがとうございました!
サブタイトルの和訳は、「私はあなたしか愛すことができない、そしてあなたは私しか愛すことができない」だそうです。この英文もまた素敵ですよねっ!
これからもよろしくお願いします^^

2010.09.19
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