3Z
夏は、暑い。 当たり前だけど、暑い。
本当に暑くて暑くて溶けちゃいそう。
「神楽ちゃん、大丈夫?」
夏休みも終わったというのに暑い。 机で突っ伏した私に声をかけ、パタパタと扇いでくれる姉御。
あぁ、涼しい。ありがとう、姉御。
6限が始まるチャイムが鳴って、パタパタ扇いでくれた姉御も席に戻ってしまった。
だるそうに、銀八先生が来た。 そういえば隣の席の沖田がいない。昼休みからいない。
「せんせー」
「あァ?何だー、神楽?」
「……沖田、いない。探してくるアル」
「………えっ?あ、……うん、よろしく」
銀八先生もクラスの皆も驚いてる。 だって、自ら探しに行くなんて今までにないから。
なんか、無性に沖田に会いたい。
暑くて動きたくなんかないけど、フラフラと教室を出て屋上へ向かった。
きっと、いるはず。
屋上に行くと、やっぱりいた。 日陰になっているとこに、変なアイマスクをつけて寝転がっている。
私は、その隣に座った。 途端、沖田は起き上がった。
「…起きてたアルか?」
「いや、今起きた…」
寝起きの沖田は、汗をかいていた。
そりゃそうか、こんな暑い外で寝るなんてバカだ。なんだやっぱりバカなんだ。
コツンと頭を叩かれた。
「…心の声、漏れってぞ」
「マジでか」
夏の熱い風が、ふわっと吹いた。 暑いけど、少しだけ、ほんの少しだけ涼しくなる。
「なにしに来たんでさァ」
「………連れ戻しに」
ボーッとして働かない頭の中で、あぁ、素直じゃないと思った。 そう思いながら、口は開く。
「沖田を、連れ戻しに来た」
「うん?今さっき聞いたけど。銀八にでも頼まれたんだろィ?…あーめんどくせェ」
違うヨ、違う。私が、沖田を連れ戻しに来たんだってば。
「お前が、隣にいないから来たアル」
隣で少しだけ、沖田が動いた。 あー、暑い。本当に暑い。
「隣にいないから。会いたく、なって…」
「…うん」
「屋上に来たら、いた」
沖田はそっか、って言って私の頭をぽんぽんと撫でた。 それが、心地よくて嬉しくて何だか痒い。 普段ならしないでしょう?
あぁ、でも限界。もう無理。
「沖田………暑い、アル」
言って意識を手放した。
目を覚ましたら、白い天井で薬の匂いがした。
「熱中症、だって」
不意に隣から声が聞こえた。 沖田を見ると窓の外が目に入って、どれだけの時間が経っていたのかを思い知らされた。
「…今まで、いてくれたアルか?」
「ん?あぁ…だって、お前俺に会いたくて暑いなか俺を探しに来たんだろ?」
「…うるさい、アル」
「ははっ……うん、俺好きだけど?そういうとこ」
やっぱり、暑い。夏は暑いんだ。
「意味、分かんないヨ。お前も暑さにやられたのか?」
「そーかもなァ、お前にやられた。ずっと前から」
そうか、暑いのも。会いたくなったのも。 夏のせいじゃない、きっと。
「熱中症の原因、私分かったアル」
「ふーん、何?」
「沖田のせい。だから、責任取れヨ」
「言われなくても」
軽く触れた熱すら心地よい。 じわじわと唇から広がって、全身熱くなるけれど、大丈夫。
今年の夏は暑い。例年より。
暑く熱い夏は、まだまだ終わりを見せない。
熱中症の原因
2012.08.23
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