3Z
約束っていうほどの約束じゃない。 もしかしたら約束なんて言えないのかもしれない。
明日はいよいよお祭り。 1年前に交わした言葉を覚えていたらいいのに。
***
1年前の夏祭り。 確か姐御と九ちゃんと来たんだけど、途中ではぐれてしまった。 しかも、携帯を忘れるという失態。 慣れない下駄なんて履いてるから足は痛いし。 人混みの中、姐御たちを探すなんて無理だろう。
って、思って歩いていた帰り道で偶然会った沖田。 話をしてると沖田もゴリラたちとはぐれたと聞いた。
「はぐれたもん同士だな、俺ら」
「そうアルナ〜」
あ、あと少しで家に着く。
そんなとき小さく沖田が言った。
「‥‥え?」
気付くと私の家の前で立ち止まっていた。
「だから、来年ははぐれたもん同士で祭り行くかって言ってんでィ」
「‥‥‥う、うん‥行く、アルか」
「じゃ、俺帰るから。宿題ちゃんとやれよ、バカチャイナ!」
「なっ、お前もちゃんとやれヨ!」
***
そーんな、会話をしたのが1年前。 覚えてるかなんて分からない。 そもそも待ち合わせ場所とか分からないし、祭りの話なんて一切してないし。
それでも、少しの望みに賭けて。
今年は紺色の浴衣。 いつもしてるお団子は一つにまとめた。
せっかく着込んだのにひとりぼっちだったらどうしようか。 やっぱり覚えてるはずないと思う。
あの時言った言葉はただなんとなく言っただけかもしれない。
今さらになって不安は大きくなるばかり。
外からは祭りの賑やかな音が聞こえてくる。
ひとつ息を吐いて、外に出た。
「‥どんだけ待たせんでィ、バカチャイナ」
路地に出ると家の前に沖田がむすっとした顔で立っていた。
「‥な、なんでアル?」
「やっぱ忘れてたか‥」
「わ、忘れてないアル!でも‥沖田が覚えてるなんて、思わなかったヨ」
右手がぎゅっと握られた。 驚いて沖田を見ると、少しだけ赤かった。
「‥‥‥俺も、お前が覚えてるなんて思わなかった。じゃあ‥行くか、祭り」
「うん、早く行くアル!」
まさか覚えてるなんて。 しかもわざわざ来てくれるなんて。
思いもしなかったんだ。 でも、どこかで信じていたんだと思う。
嬉しくて、ぎゅっと強く握った右手に応えるように沖田も握り返した。
夏の約束
2011.07.24
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