3Z



好き。大好き。
私以外の女の子と話しているのは嫌。

いつもケンカばかりだけど本当は好き。

私は素直じゃないから”好き”という2文字を伝えることが出来ない。

きっと振られる。
沖田は私のことを女の子としてみてくれていないから。
ただのケンカ相手としか思っていないんだと思う。


想いを告げたら壊れる。
きっと、戻ることは出来ないと思う。

それは嫌。
でもそれ以上に沖田に彼女が出来るのはもっと、嫌。



自分はとても欲張りだと思った。
少しだけ鼻がツンとなって、泣きそうになった。



ふいに屋上のドアが開く音がした。
誰かと思ってこっそりと様子を伺っていると来たのは沖田―――、と可愛い女の子。


告白なのだろうか。
それだったら今すぐここを去りたい。

でも2人がいるのはドアの近く。
屋上を出るにはそこしかなかった。


せめて見つからないようにと、息を殺して隠れた。



「…あの、私………沖田くんが好きなんです!」

「………俺、好きな人…いるんでィ」



一粒、静かに涙が零れた。


(…沖田、好きな人いたのか。私知らなかったネ)



「…誰、ですか?教えてくれたら諦めますから!」



「………――。」



女の子は分かりました、と言って屋上を出て行った。



沖田の好きな子の名前はよく聞こえなかった。
いや、聞こうとしなかった。



涙は溢れるばかり。


ゆっくりとこちらに近づいてくる足音が聞こえる。
目の前でピタリと止まった。

頭をくしゃくしゃと撫でられた。
その手の動きが凄く優しくて暖かかった。


顔を上げると真っ直ぐに私を見ていた。



「何泣いてんでィ…こんなとこで」

「…別に、何でもないアル」

「…なぁ、チャイナ、ちょっと話聞いてくれやせん?」

「…何でヨ」

「俺、好きな人いるんでさァ」


聞くなんて一言も言ってない。
しかも話の内容は恋の相談…?

そんな話は聞きたくないとばかりに私は少し俯いた。



涙がまた溢れ出しそうだ。
知りたいかィ?なんて言いながら顔を覗き込んでくる。


「…今から屋上でそいつに告白しようかと思ってまさァ」


何で、どうして、私に言うの?
嫌、そんなの聞きたくないんだよ。


「………頑張れヨ。私もう帰るネ」



駆け出す。


だけど、屋上から出ることは出来なかった。
沖田に腕を強く掴まれた。
振り向きたくはなかった。
駆け出そうと飛び出した瞬間、大粒の涙が頬を伝ったのだ。
そんな泣き顔を見られたくはなかった。



「どこ行くんでィ」

「離せよ、馬鹿サド」


離すまいと強く腕を掴まれる。
きっと、いつもなら振りほどくことは出来るはず。


神楽、と低い声が響く。
普段は呼ばれない私の名前。

思わずビクッとしてしまった。



「…俺が告白を断る理由、お前だって知ってる?」



「俺は…神楽が、好きなんでさァ」



零れた。
ゆっくりと振り返る。



「…私は嫌い、ヨ。私以外の女の子を見る沖田は嫌いヨ?」



自分は本当に、ズルイ。



ふわっと優しく抱きしめられる。
いつの間にか沖田の腕の中にいた。



「大丈夫でィ…俺は神楽が世界で一番好きだからねィ」



「…お前しか見てねェよ」





そっと、首に腕を回して背伸びをする。
そして耳元で今までずっと伝えたかった想いを告げた。


ちばん
(私も総悟が世界で一番好きヨ)(貴方しか見えない!)



2010.02.22
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