「…あれ? 円堂君?」 「っ…ヒロト……」 偶然だった。偶然、夕飯の買い出し当番だったため目的を果たした俺は、河川敷を歩いていた。 そうしたら彼がいた。俺の大切な人。 芝生の上に寝ている彼のお腹の上にはサッカーボールがあるから、きっとサッカーの練習をしていたんだろう。ホント、サッカー大好きだよね。俺も好きだけど。だって君と出会うきっかけになったんだから。 俺は芝生を踏み、円堂君の元へゆっくりと歩み寄った。 そして上から彼の顔を覗き込んだ時、いつもはない違和感を感じた。円堂君は俺から勢いよく顔を背けてしまった。よく見ると赤く充血した眼をまるで隠すように、右腕を顔に乗せる。 ……泣いてるの? そう聞こうとした俺よりも先に、円堂君が口を開いた。 「…るんだ」 「え?」 「好きな奴、いるんだ…」 その言葉は何よりの凶器となって、俺の全身を駆け巡った。だって俺、今目の前で好きな人が涙しながら恋に悩んでいるんだよ? 傷つかない人間なんていないと思う。 衝撃により持っていたレジ袋を落としそうになるも何とか堪えきり、きつく握り締めた。 こんな弱い円堂君、初めて見たよ。 なおも顔を隠し続ける彼を見て、悲愴な想いを必死に押さえながら俺は、そんな円堂君の隣に腰を下ろした。同時に視界へ広がるのは、大きな川とその水面に映る赤くぼやけた太陽。だが今は黒色にしか俺の眼は映してくれない。 買い出し当番、俺じゃなきゃこんな想いしなくてすんだのに…と心の中でぼやいた。神様は本当にどこまでも俺を苦しめるよね。 「円堂君、相談乗ろうか?」 そんなことを聞いた自分は本当の馬鹿だ、と自嘲気味に笑ってやった。わざわざ自分を苦しめるだけなのに。でも、やっぱり彼を放っておくことは出来ないみたいだ。 円堂君は俺の言葉にピクリと肩を動かす。しかし顔は隠したまま……ゆっくりと口を開き俺の名を紡いだ。 「……ヒロト」 「ん? なあに?」 「だから…、ヒロトなんだよっ」 そんなたった一言が、俺の世界を鮮明にしてくれた。 もっと名前を呼んで? 「凄く嬉しいな、円堂君」 「………」 「俺もずっと円堂君だけを見ていたよ」 初の小説はヒロ円でした。 漫画だとビッチになるが文で書くと、割と純情なヒロ円になることが判明。いや、円ヒロ疑惑も浮上…。 ビッチなヒロトも、最近は純なヒロトも好き。 10/03/23*竜うみ |