暗くて、居るだけで凍てついてしまいそうな部屋に私と彼はいた。 「名前、ノボリが好きなの?」 冷たい空間に響き渡る冷たい声。 その声の主の両手は私の喉元にあり、指が一本一本力強く食い込んでくる。 「っちが…ぅ、ク ダ…リッ」 意識が朦朧とする。 それでも私はクダリの問い掛けに、必死で否定の言葉をとぎれとぎれにも述べる。 しかし、一向に喉元の手の力が緩まない…ということは、クダリの耳には届いていても心には私の言葉は届いていないということだろう。 それどころか加えられる力は増す一方だ。 このままクダリに殺されてしまうのだろうか? 状況とは裏腹に、私の脳は冷静に予測していた。 そして意識が遠のいていくのと同時に、まず身体の末端が痙攣を起こしはじめた。 指先、爪先、痙攣はどんどんと激しい運動をしてゆく。 その時、私の喉元の力がなくなり、一気に大量の酸素が私の口から体内へと流れ込んできた。 あまりに急なことに体はついていけず、私はその場に倒れ伏して貪るように酸素を吸い込む。 「名前、ノボリといる時 凄く笑顔」 先程と同じ、冷たい声が頭上から注がれる。 「ボク以外にあんな顔しないでくれるかな?」 その言葉が言い終えるのとほぼ同じ時に、腹部へと強い衝撃が与えられ思わず私は呻き声を上げてしまった。 じわり、じわりと鈍い痛みが私を襲う。 次の衝撃を恐れ、腹部を守るべく体を丸くすると今度は髪の毛を思い切り引っ張られ、私は半身立たされる姿勢となった。 うっすらと目を開けば、自分の涙によって視界は霞むものの目の前にいるクダリが映る。 その口元は普段通り弧を描いて笑っていたが、目は一切の光を受けず恐ろしく異様な空気を醸し出していた。 「名前は 誰の彼女?」 クダリからの突然の質問に、痛み…恐怖、それらにより震える唇から私は言葉を紡ぐ。 「…クダ、リ……だよ」 「だったらその目はさ、ボクだけを映してなって…ばっ!」 彼が言い終えるのが先か同時か。 左の頬に鋭い痛みが走る。 力強く叩かれた、のだと認識した時には口の中に鉄の味が広がった。 「キミはボクだけの“モノ”なんだ。誰にも渡さない」 感情を一切垣間見せぬ冷ややかな声でそう言い、クダリは私の髪を掴んでいた手を離した。 それにより私の身体を支えるものはなくなり、全身の倦怠感を感じながら勢いよく床へと私の体は吸い寄せられ、そして打ち付けられた。 酷い倦怠感を受け、脳からの命令をなかなか体は聞いてくれない。 だから私は口だけを何とか動かした。 「あいしてる」 たとえ、貴方に殴られようとも私はクダリを愛し続ける。 たとえ、貴方に殺されようとも私はクダリを愛し続ける。 クダリが私の世界の中心だから。 「ボクも、名前だけを愛しているよ」 嗚呼、狂っている 11'01/01 |