母の日に、母ではないけど我が子のような。

愛しい貴方を想い、私は待つ。


「うーん、今日もいい天気!!」


窓から頭を覗かせて、外を見上げれば裏新宿でも気持ちいいと思える晴れやかな青空。

何か良いことがありそうな予感。

例えば。

ほら……。


――バタン、ガタン!!!

――ガタガタ、ガタンッッ!!!


「マリーア!!」


ほら、ね……。

やっぱり今日の占いは当たりだったようね?

なんて、この声と音に思っちゃう。


呑気に構えていたら、占い店のドアが突然の来訪者により壊されそうな勢いでもって開け放たれた。


「……いつも言ってるでしょ?」


ドアは静かに開けなさいって……。


「久しぶり…ね、蛮?」


肩を竦めて笑顔で出迎えると。


「うっせぇ…テメェはいつもいつも」


子供扱いすんじゃねぇよ……唇を尖らせて憎まれ口を叩く我が子。

まったく可愛いったらないわね……?

貴方は全然自分のことを分かっていないのだから……。

そんな態度を取る蛮が可愛くって愛しくってたまらないこと。

まったく貴方は分かってないのね。


嘆息してじっと蛮の手の中にあるあるモノを見つめていたら、それに気付いた蛮は大切に腕の中に抱えていたモノを私の胸に押し付けてきた。


「蛮?」


これがどういう意味があるモノなのか知っていて敢えて蛮に問う。

どうしたの、と。


「やる、これ……」


たった一言そう言って、手渡されたのは真っ赤な薔薇。


私の好きな蕾が割と大き目の品種の……赤い薔薇。


「覚えて……くれてたのね?」


花の香りを嗅ぎながら感慨深気に聞くと、蛮は自分のしたことに照れてるのか先程から目を合わせようとしてくれない。


「当たり前だろ……」


それでもそっぽを向いてぶっきらぼうに言う貴方がとても愛しい。


貴方が私の手から離れて数えて十年。

十年の間、離れ離れだった我が子。

なのに蛮は覚えてくれていた。

私達の間にある暗黙の母の日の決め事を。


「いいにおい…――」


私は蛮から貰った薔薇に顔を埋めて花が持つ芳しい匂いを堪能した。

この花は蛮が初めて母の日に私にくれた――と言ったら少し語弊があるけど――思い出のある薔薇。

この花は本来なら別の人に手渡されるはずだった。

だけど何の因果か私の手元に――。

そうそれは、母の日に蛮が手渡したかった本当の貰い手が、窓から投げ捨てた花を私が拾い貰ったからだ。

蛮の母親が、蛮の目の前で、罵倒と共に投げ捨てた悲しき思い出が詰まった……薔薇。

綺麗な綺麗な汚れない想いと罪のない花を投げ捨てたあの人の代わりに、私は蛮と薔薇を貰い受けた。


『捨てられる運命にある薔薇なら私が貰っても構わないわよね?』


こう言って捨てられた薔薇を拾い集めた私。

その斜め後ろで、顔を歪めて泣きそうな表情で、でも必死に泣くまいと堪えながらありがとうと言った蛮を私は今でもよく覚えている。

いまだ忘れることなく……。

胸の奥でひっそりと。


「まぁ、随分たくさんあるのね?」


腕に納まり切れない薔薇達は、母の日に贈る花束としてはあまりにも量が多かった。


「……今まで渡せなかった分、だよ」

「え?」

「毎年オレ達が出会ってから……その数の分マリーアにやってたろ?」


それを…と顎で薔薇を指し示す。


「ええ」


幼い蛮に出会ってから一年目は…違ったけど、二年目は二本、三年目には三本。

そんな具合に……。

確かに私は蛮から薔薇を貰い受けていた。


「だからさ、そのお詫びとして……」


離れていて渡せずじまいだった母の日の花を。

今日のこの日に――。


「蛮……」

「クソ!ガラでもねぇ…っ///」


驚きに蛮を凝視する私に貴方は照れて頭を掻く。

だけど貴方は一生懸命に考えてくれたのでしょう?

勝手に家を飛び出して出ていった貴方は、私にすまないことをしたと思って……。

どうしたら今までの感謝を伝えられるのか……だから母の日に会いにきてくれたのでしょう?

親思いの優しい子だから……貴方は。


「………」


こんなに多くの花束は、さぞかし高かっただろうと薔薇の花びらを弄りながら思うは
蛮のこと。

ああ…貴方はなんていい子なのかしら。

そして私はなんて世界で一番の幸せ者なのかしら。

だってこんな子供の母親になれて。

神様に感謝をしたい気分とはこういう気持ちを言うのね、きっと。

神様……私に蛮と引き合わせてくれた運命に感謝の意を…――。


「Danke…蛮」

「ああ」


またしても素っ気ない返事だったけど、こちらが気になって仕方がないと、ありありと分かる無意識の行動を取る蛮に、私は口元を綻ばせて声なく笑った。

勿論、蛮から見えない位置でこっそりと――。


何にも要らない。

何にもなくていいの。

ただ、過酷な運命を背負いし我が子の姿を一目でも。

私はそれだけで嬉しいの。

嬉しいのよ、蛮?


Black or White?の浅倉姶良様のもとからかっさらってきました。
蛮ちゃんかーわーいーいー!!!!!
マリーアさんと蛮ちゃんの絆が、こう…ね!うん。心が温まるというか。私なんぞか
感想書くのも恐れ多いです。浅倉様、掲載許可ありがとうございました!

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