嗅ぎなれた鉄錆の臭いに、ヌルリとした生温いそれは。
結構な時間が経つが、止まる気配はない。


避けることはできたが避ける気はなかったというか。
むしろ刺されてもいいや、なんて。
そんなことを考えいたら、腹部をブスッとやられた。
誰だったかは、わからない。何せ身に覚えがありすぎた。

結構、深い。
ああ、これはマズイかな、と思うも止血する気も起きず。
壁にもたれて立っていたはずが気付けば座っている。
自分の血と、誰かさんの(俺を刺して無事でいられると思うなよ)で、辺りは血の海とはいかないが血溜まりにはなっていた。
血溜まりに、死体と二人きり。
笑えない状況だ。

「何をしている」
それはそっくりそのまま返させてもらいたい。
絶好の機会だ。問答無用で切り捨ててしまえばいいものを、なに声などかけているんだコイツは。
「夏彦」
出てきた声は、思っていたより小さく、掠れていた。
おもむろに包帯を取り出し近づいてくる夏彦。
「お前は、いつも包帯なんて持ち歩いてんのか」
なんて抜け目のないヤツだ。
「そんな日もある」
どんな日だよそれは、とツッコミたいのも山々だが、そんな気力もない。
それよりなにより、何故コイツは手当てなどしているんだ。わけがわからない。

「お前を殺すのは、俺だ」
そうだろう? と、頬に触れてくる手は、言葉の物騒さと全くもってあっていない。
「そう、だな」
突然何を言い出すんだ文脈も何もねぇぞと思わないこともないが、そっと、手を重ね、肯定。
しまった。今この手は血塗れだ。
「悪ぃ、汚した」
「構わん」
構わないと言いながら眉をひそめるのは何なんだ。
「血」
「血?」
やっぱり気にしてるじゃないか。
「止まらないな」
そうか。原因はじわじわと赤の滲み続ける包帯か。
「マズイかな?」
笑ったつもりだが、多分間違いなく歪んでいる。

ああ辛い顔をしないでくれ。お前のせいじゃないだろう?
避ける気がなかったのが悪いわけで、というより、まずこうして生きているのが悪いというか何というか。

「…落ちるなよ」
だから文脈もなにもねぇって。
今の流れでどうしてそれが出てくるんだ、と思っていたら。

浮いた。

なんだこれいやわかるこれは世間でいうお姫様抱っこいや違くてなんだこれ。
「バカお前汚れるって離せってば」
「いいから、大人しくしてろ。汚れなんて気にするな」
無理だ。
というか何をするつもりなんだコイツは。
「連れていく」
どこにだよ。
いや、まず
「バカだろ、お前」

ホント、バカだよ。

優しくしないで。殺されてもいいんだから。お前に殺されるならむしろ本望だよ。

「…止まらないな」

出血多量。

死ぬのなら今この瞬間がいい。
甘い優しさのなかで、ゆっくり、息絶えて。

まるで自分のことのように、辛そうにするお前だけが心残り。

070625


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