座り心地の良いソファに、つかず離れずの距離。本を捲る音がたまに聞こえるだけで、会話はない。
こうして二人きりになることなど滅多にないというのに、その貴重な時間を読書に費やすとは。
もっとくっついたり、話したりすればいいのに、と思うときもある。それはそれで悪くはない。
だが、会話を楽しむより、互いに触れあうより抱き合うより、この沈黙が心地良い。
普段共にいる相手が沈黙とは程遠い人間だからかなのか、他に理由があるからなのか。
何にせよ、この時間に不満はない。

自分は。

そう、自分は。
そもそもこの時間は自分が率先して作っているのだから、不満などあるはずもない。

でも、相手は?

考えてみれば、隣にいるコイツが、この時間に不満だって何だってある可能性は高いわけで。
医者の性なのか何なのか、コイツは稀にひどく優しい。
いつの間にか、当たり前のように人を切り刻むその手が、当たり前のように優しく触れてくることに疑問を抱かなくなっていて。
不満も何もないものだと、勝手に決めつけていて。
言いたいことも、やりたいことも、あるはずなのに。

手は相変わらずページを捲り続ける。
もはや内容など頭に入ってはこないが。

考えれば考えるほど、申し訳ない気持ちでいっぱいで。
申し訳ないなんて柄じゃないことを思わせるくらい、自分の中でコイツの存在が大きいことに今更気付く。

本当に、今更、だけど。

ペラペラと、ページを捲り続ける手をそのままに、コテンと、額を肩に埋めた。
意外と暖かい。

要望も不満も何でもきくから、今は、このまま。
静寂の中、君とふたり

070420
屍蛮だと言いはってみる


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