小説 | ナノ

 次々と襲い来るDIOの刺客達は、正攻法で戦いを挑むスタンド使いはほとんどいなかった。皆イニシアティブを取るために変装したり一般人に紛れ込んだりしてジョセフ達に近づく。
 公子もまたそんな騙し討ちの刺客の一人で、旅行者を装って花京院に近づいた。
「あの……公子さん……」
「ん?」
「その、非常に申し上げにくいのですが……」
「なによぉ。アタシたちの仲じゃない。それとも、仲良くなれたと思っていたのはアタシだけ?」
「あ……いえ……仲がよくとも僕らはその、男女ですから……あまり近づかれると……」
(かかった!)
 公子のスタンド、ミノタウロスは非常に強力なパワーを持つ反面、発動するのに条件があるという、リスクとリターンが共に高いものである。
「ギリシャ神話に出てくるミノタウロスを産んだパーシパエー王妃は、ポセイドンから賜った美しい黄金の牛に欲情する呪いをかけられているの」
 発動条件は、本体である公子に欲情すること。
「閉じ込めてあげる」
 そしてその能力は神話と同じ、迷宮の創造である。
「なるほど、足止め作戦か」
 だが花京院とて無防備に女にデレデレしていたわけじゃない。警戒を怠っていなかった彼はスタンドの発現と同時に公子の身体にハイエロファントを絡ませていた。
「キャッ!なによこれぇ!」
「スタンド能力を解除しろ」
「ハァ!?いい、出られないから迷宮なのよ。この迷宮に潜むミノタウロスを倒さない限り出口はないわ」
「つまり君のスタンドを倒す必要があると」
「いえ、ミノタウロスはあなたよ。この能力で捕まったバカな男が狩られる側にまわるの……ちょちょちょ、あんまり体を触るんじゃあないわよ」
「いや、ちょっとスタンドで調べさせてもらったがどうやら本当みたいだな。元の場所に戻るには僕が死ぬか、もしくは……本当に歩いて出口を見つけるか」
「なんでわかったのよ!?アンタのスタンドそんなことも出来るわけぇ!?調査できるスタンドはハーミットパープルだけだって聞いてるわよ!?」
「ああ、かまをかけただけだ」
「……この野郎」
「歩いて出口を探す。だが迷宮というものは罠がつきものだ。君をこのまま縛って一緒に歩くから、罠があるなら教えてくれ。じゃないと巻き添えを食って君も死ぬ。それとも、例え死んでも僕を足止めしたい?」
「……分かったわよ。一時休戦ね」
 公子は今回別のスタンド使いと手を組んで襲撃に移っている。他の連中が承太郎たちを始末するまで花京院を足止めできれば、迷宮から出た後に彼らと合流して大人数で叩けるわけだ。だからこのままここをうろつくというのは公子にとって悪い話ではなかった。

「ねぇ、アンタさ。アタシが本性見せてから言うのもなんだけど……ずいぶん態度違うわね」
「そりゃ敵に対して敬語を使う必要もないだろう。必要最低限理性的には接するようにしているつもりだけど」
「フン、一度でもアタシに欲情した奴に言われても怖くないわよ」
 迷宮は複雑怪奇。十字路どころか八方向に道が分かれていたり、階段があったりで方向感覚を鈍らせていく。
「メモもとらずに分かるもんなの?あ、そこ足元に罠があるから踏まないで」
 言われた通り罠にかからないように足元のピアノ線を避けて通る。そのまま迷いもなく進み、右へ折れ、左へ折れ、階段を上ったあとにまた降りて……まるで道を知っているかのように立ち止まることなく進んでいく。このままだとすぐに迷宮が突破されるのではないだろうか。
(……しまった。メモをとってないんじゃない、迷宮そのものをメモにしながら進んでいるんだ!)
 よく見ると壁には小さな傷がある。このままでは迷宮が突破されてしまう。
(時間は……ニ十分ってとこかしら。これじゃあみんなが他の連中を始末できたかどうか不安だわ)
 だがスタンド以外に公子が出来ることと言えば、色仕掛けくらいである。
「……ねえ花京院。アンタ、もう勃起は収まったわけ?」
「見れば分かるだろう。これで勃起しているほど僕のサイズは小さくない」
「まっ。結構下ネタもイケるんじゃない」
「僕が女に興味がない年齢に見えるか?あの色仕掛けが芝居じゃなく、本当に欲求不満だというなら少し付き合ってやろうか?」
(かかった。向こうから時間を消費してくれるとは、ラッキー)
「だがさっきも言ったようにもう勃起はしていない。そしてこのハイエロファントの手枷を外すつもりもない」
「つまり、口でしてほしいってことね。手が使えないから脱ぐのは自分でお願いね」
 ベルトを外し、用を足すときのように少しだけ衣服をずらしてそれを取り出す。先ほど小さくないと自分で言っていたが、小さくないどころかかなりの長さである。
(でっか……)
「怖気づいたか?」
「まさか」
 まだ下を向いている先端を、舌で迎えてやる。掬い取って口の中へ導けば柔らかな感触のあとで蒸れた汗の匂いが味覚を支配する。
「む……ん……」
 一番奥まで飲み込もうとするもどうしても喉につっかえてしまう。そして苦しい思いをしてまで花京院に奉仕したいわけでもないし、やり過ぎて早めに射精されては時間稼ぎにはならない。
 だが先端を舌先で弄んでやるだけにしていると、乱暴に後頭部を掴まれた。
「全部咥えろ」
「んんんっ!」
 顔面に腹を打ち付けるように何度も前後に動かされる。脳が揺れるのではないかと思う程に激しく動かすその無茶ぶりに、思わず口の中の竿を噛み切ってやろうかと顎に力を入れた。
 だが、ハイエロファントが公子の体内にも侵入し、彼を害する動きを封じてくる。
「んーっ!んーっ!」
 そして強制的に飲み込ませるかのように、喉の奥で射精した。
「ふーっ」
「ごほっ、がはっ……ら、乱暴すぎでしょ!初対面の頃のあのうぶな感じはどこいったのよ!?」
「うるさいな。そっちこそ初対面の頃みたくもっと媚びを売ったらどうだ?ほら、こんな感じに足を開いて……」
「それはあんたを罠にハメるために!欲情させるための演技よ!」
「時間を稼ぎたいんだろう?もう僕は一回出したんだ。これで終わってさっさと探索を再開してもいいんだぞ」
「ぐっ……」
 公子の作戦まで全てバレていては仕方がない。生き残るには、この男の興味をひかねばならないのだ。だが、これ以上のことはさすがに抵抗がある。
「まあ、場所も場所だからな。正直こんな埃っぽい場所で、しかもシャワーもないからやめておくか」
 内心助かったと思う反面、時間稼ぎをしなくては今度は命が危ないのではと焦る。
「どちらにせよ結果は同じだからあまり気にする必要はないと忠告しておこう」
「どういう意味よ」
「承太郎たちがやられてるはずないということさ。さて、まだ行ってないのはこの道だけだな。もう出口はすぐだろう」

 迷宮から出たところで公子はがくぜんとする。承太郎たちに変形するほど殴られたり切られたり焦がされたりした仲間が白目をむいて転がっているのだから。
「ひっ」
「おー、花京院。俺らが戦ってる間お楽しみだったのかよ」
「あぁ、彼女は……」
(うそ、一対五!?)
「彼女は普通の旅行者だよ。頻繁に会うから僕も一瞬疑ったけど、違ったみたいだ」
(え……?)
「すまない、ホテルまで彼女を送り届けてから出発でいいかな」
「ああ、まだ足の手配もしておらんから急ぐことはない、少しゆっくりしてきなさい」
 ポルナレフが嫉妬からか何やらぶつくさ言っていたが、それを無視して公子をべつのほうこうへとエスコートする。このまま見逃すつもりだろうか、と淡い期待が一瞬浮かんだが、この男がそんな甘い考えをしているはずがないと首を横に振る。
「ど、どういうつもり!?」
「君は、仲間を失い、任務も失敗した」
「え、えぇ……」
「だからこのまま戻ればDIOには役立たずとして処分されるだろう。なぜ再起不能になるまで戦わないのかと。だが君の能力では僕らの内誰か一人でも片づけるのは難しい。だから、僕らの命を狙う振りをしてこっそり同行するしかない」
 言われてみれば今後の公子の行く末は絶望的に暗かった。帰れば処刑、逃げれば追っ手、戦えば敗北。
「君は僕らを抹殺するフリをし続けないといけない。そして顔はもう皆に割れてるわけだから、僕以外の人物と接触するのはリスクが高い。僕にちょっかい出していた女が今度は別の男に声をかけているぞってなるからね」
「つ、つまり?」
「僕と定期的に接触すればいいんだよ。もちろん、他の皆がいないときにね」
「接触……?」
「君を助けてあげるんだ、それなりの対価は当然いただくよ。僕はね、シャワーがあるところでなら、まぁいいかと思ってるんだ」
 それはある意味、公子を再起不能に追い込むよりも残酷な提案だった。


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