小説 | ナノ

 運命の赤い糸が小指同士を結んでいる、なんて言葉は、ロマンティックな女の子の夢ではなく、科学的な常識となっていた。
 数パーセントの人間だが、その赤い糸を感じることが出来るらしいというのは通説である。
 自分の体からどこかに運命が繋がっていて、その先にいる相手に出会ってしまったが最後。一目で恋に落ちる。
 そう、愛ではなく恋だ。それは野生の獣のように、本能が相手を支配しろと命令する、一方的な蹂躙。
 一方的、というのは、赤い糸には雄型と雌型があり、いわゆる『マスター』と『スレイブ』の役割に分かれているからだ。雌は雄を求めて異性を惑わせるフェロモンを無意識に出してしまい、雄はそれを嗅ぎ分けようとして嗅覚と第六巻が鋭くなると言われている。
 知らず知らずのうちにそれを異性を誘惑しようとしているのではないかという不安を払拭するため、中学校入学前に赤い糸を保持しているかどうか多くの人間が検査をする。
 大体の人間は糸の存在を感じない通称『糸なし』という通知を受け取り、がっかりしたようなほっとしたような感覚を味わってそこで終わる。
 がっかりというのは、社会的成功者の中に糸の保持者の割合が高いというのが一因だ。中には雌型の保持者がフェロモンで有力者をたぶらかしているからだろうという悪意の塊のような噂を流す人もいるが、そのフェロモンが糸なしの人間をも惑わせるように、雄型の放つカリスマ性のようなものもまた、糸の有無に関わらず人を支配下におく凄みのようなものを含んでいる。
 そのため会社でもトップに位置するような人物は雄型の糸を保持しているということが多いのだ。
 逆に雌型の糸保持者は大変だ。フェロモンを無意識に撒き散らしては異性を誘惑してしまう。そのため投薬でそれを押さえなければならず、人によっては薬と相性が悪いため外出を控えねばならずマトモに職に着くことも難しいと言うケースすらある。
 だから、糸なしの通知にはほっとした感情とがっかりした想いの両方があるのだ。
 だが、ごく少数の人間に届く糸保持者の通知。そしてその後にある雄・雌型の記載に、目を丸くする者もいる。
 検査後から数日で無機質な白い封筒が届き、そこに押された赤い親展の文字に当時小学校を卒業したばかりの主人公子は手を震わせながら封を切った。

あなたの検査結果は――――――


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