「ヴェネチアーノ」
ぽつりと呟くと、石造りの檻に声が反射して自分の元へと返ってきた。
じわりと歪んだ視界、自らの茶色のつま先に嗚咽が漏れた。なんで、こんなことに。ぼやいた唇は震えて言葉を発することなど出来なかったけれど、確かに、動いた。
「あいつ…っ、助けて、くれたのに…!」
泣きながら詫びたって許されない。褐色の肌を思い出して更に涙が溢れてきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…!」
わあわあ叫びたかった。何故だか外は騒がしいし、檻の中など誰も気には留めないだろう。
だけどいつの間にか影がぽつりと現れて、思わず顔を上げた。誰だ、なんて言葉はのどに詰まって。
なぜなら腫れた瞳に写ったのは、
太陽みたいな笑顔をした先ほどの彼だったのだから。