「良くやりましたね」
真っ黒な瞳に心臓が跳ねる。けれどこれで、もう俺は解放されるんだ。
「この王冠だけで、時価数億はくだりませんよ」
どきどき、先ほどとは違った意味で心臓が痛い。やっと、会えるのだ。数ヶ月ぶりに栗色の瞳に光を宿した気分だ。
「じ、じゃあ!」
待ちきれずに声を発すると、黒い瞳が細められた。はやく、はやく口を開いてくれ。待ち望んだ言葉を。
ふわり、と男の背後にあった窓から風が舞い込んだ。
「だけど、君の弟はもう一か月も前に売られてしまってるんですよねぇ」
ガシャーン。
どんな硝子よりも脆い、
脳みそも心臓も手足も心も、何もかもが崩れた音がした。