「えっと、こっちのちまっこいのがロゼッタ=ヴォルテール。元スペイン王国騎士団長や」
「よろしゅう!」

「で、こっちの」

パンッ

朝っぱらから船員たちを集めてなにやら始まった自己紹介。
甲板に出てみんなの前に立つと、褐色の人があたしたちを紹介してくれた。もう隠すこともないスペイン語に心が弾む。

けれど。隣にいる、あの子をまた同じように褐色の人が紹介しようとした瞬間になにやら物騒な音が響いたのだ。びっくりして音のした方を見ると、船長が銃を構えていて、その銃口からは真新しい煙。犯人はこいつか!

褐色の人を見上げると、まるでいつものことのように飄々としていたからなんだか気が抜けた。そうかここの船長はこうゆう人なのか。


「………ユーフェミア=アストン」


横で口を開いたその、船長に遮られた子はいかにも嫌そうな顔で船長を見ていた。そして船長はそれを満足そうに見届けてから一言。

「コイツは俺の女だからな」

だなんて、あららら!ずいぶんと情熱的。隣の子を見ると、なんだかやつれているような、うんざりしたような表情だった。けれど昨日は無かった唇の赤はきっとこの船長からの贈り物なんだろう。男は独占欲を口紅を贈って表す、なんて話を聞いたことがあるから。


「…あんたのものじゃないわよ」
「ハッ、そうかよ」


そう鼻で笑った船長は、腰掛けていた樽から降りてカツカツ、とブーツを鳴らしながらこっちに歩いてきた。隣の子のそばに来たと思えば、おもむろにその子の唇を指でなぞり、


「ひゅー!やるねえ船長!」
「お嬢ちゃんにはまだ早い!見ちゃいけません!」

自らの唇を重ねたのが見えた。それも乱暴に。どこの洋画だって感じ。

思わずはやし立てたら褐色の人に目をなにかで覆われた。なんだ今いいところだったのに。そっとそのなにかをずらすと、そのなにかは褐色の人の腕だったことが判明した。

「なにするのよ」
「相変わらずつれねぇな……ユフィ」


隣の子の顔がぼん、と赤くなったかと思えば、なんだなんだ、口をもごもごとさせている。何よ、気安く呼ばないで、なんて説得力にかける表情でつらつらと並べる彼女に、船長はまた満足そうに笑っていた。


「おら、そこのガキ」
「…あたし?」
「そうだ。名前は」

そのまま首を横に向けて、あたしになんだかご機嫌なまま話しかけてきた船長。

名前、さっき言ったじゃん、なんて思ったけれどやっぱりここは潔く自分で言った方がいいのか。けれどこの男にあたしは異常なまでの嫌悪感を覚えた。


「…ロゼッタ=ヴォルテールです。」
「ほお、元王族、か」


あたしの名前の後、一拍も置かず放たれた言葉。ざわっ。一瞬だけざわめいた船内。こいつ、何言ってるの。とっさに肩を庇うと、そいつは嫌みったらしく口元を歪ませた。

ああ、気にくわない。


「…だからなに、今は王族じゃないわ。」


何かが警告を上げた。駄目だ駄目だ、なにかを引き上げては。頭をよぎったのは、記憶の後ろにあった、まるで宝石みたいなペリドット。


「なんなら、試してみる?」


ああ、彼はあたしとどこか似ている、あたしは彼に会ったことがある、覚えていないだけで。手をかけたサーベルを思い切り鞘から抜き、船長に突き付けた。

ルビーとペリドットがぶつかる。


「…はっ、ははは!面白ぇ!おい、ロゼッタ。」


いきなり笑い出したと思えば、急に名前を呼ばれたものだからなんだか頬がぴーんと突っ張った気がした。なんなんだこの人。

カツカツ、またブーツを鳴らしながら今度はあたしの方へ少しの距離を縮めるように近付いてきた船長に、思わず身構える。
そして、その装飾品を大量に引っさげた腕をじゃら、と音を上げながらあたしに伸ばしたのと同時に恐怖で目をつむると。



「お前、強くなるな」



そう言って、乱暴に頭を撫でられた。

それは、ほんの少しの間だったけれど、この船長を理解するには充分すぎる時間。ふ、と頭から手をどかしたと思えば、カツカツ。船長は背を向けて歩き出していた。

そして、あたしに背を向けたまま一言だけ。







「守り抜けよ、てめぇで」





















その瞬間、あたしの見る景色が変わった。
















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