1
「……きっとアルが喜ぶわ」
「そうだな。あいつは甘い物好きだしな」
リカードに貰った白い箱に入ったラズベリーパイを抱えながら、ロゼッタは歩いていた。その横にはリカード。たまに口喧嘩にも発展するが、他愛のない話をしながら二人は並んで歩いていた。
そんな二人を、数メートル後ろの曲がり角から様子を伺う、怪しい影があったのだった……
ストロベリー・タルト(え? 何? 青春の一ページ?)
並んで歩く二人を覗いているのは、長身の美しい金髪をした青年。こそこそと怪しい行動をしているというのに、その整った顔立ちのお陰で格好良さは全く崩れない。しかし、その顔立ち故に怪しさが倍増であった。
彼はアスペラルの軍師・リーンハルト=コーエン。リカードの上司にして、アスペラル王の娘ロゼッタの生活を援助している青年だ。
今彼は仕事から帰って来たばかりであった。偶然廊下を歩いていたところ、二人を発見。最初は声を掛けようとしたものの、その声の掛けづらい雰囲気に、近寄れずにいた。
(うーん……若いなぁ)
心の中の声は親父臭くなりながらも、顔はニヤニヤと二人を眺めていた。
どこかよそよそしく、それでいて態度がまるで思春期の少年少女の様に初々しい。特に優しくするという事に不慣れなリカードは、戸惑いを隠せないようであった。
(俺がリカードだったら、普通に押したお……ま、リカードだから仕方ないか)
心の中で不穏な事を呟きつつ、視線はしっかりと二人を捉える。一秒でも見逃すものか、という気迫がリーンハルトにはあった。
しかし、ここで彼は思った。このまま見ているだけで良いのだろうか、と。
(こんな面白そうな事……黙ってるのって楽しくないよね)
ニヤニヤとしてた表情が、一瞬黒く歪む。目を細めながら何をしてやろうか、と彼は腹の中で笑っていた。
そこで、今日はとある物を持っていた事を彼は思い出した。
(そういえば、撮影機があったような……)
本来はリーンハルトの主人であるアスペラル王・シュルヴェステルの私物。撮影機というのは写真を撮る事の出来る、魔具の一種である。高価な品だが、王の権力ならばそれを手に入れる事など容易い。
これは王より渡され、ロゼッタを撮ってくる様に命じられたのだ。王はまだロゼッタに会う事が出来ない。だから、こっそり写真を撮って様子を伺おうという王の我侭だった。
「ここで役に立つとは……」
王につまり盗撮をしろと言われた時は、少しだけ良いのだろうか、という気はあった。しかし、今はこれを持たせてくれた王に感謝していた。
(ロゼッタお嬢さんを撮る事には変わりないし……いっか)
撮影機を構え、硝子越しでロゼッタを狙う。ついでに横のリカードも入るようにする。仏頂面な表情のリカード、機嫌を損ねた様な表情をしつつ、たまに笑顔をほんの一瞬垣間見せるロゼッタ。
その後、廊下の隅でパシャッという音が複数回響いたのだった。
prev | next
[
戻る]