SS置場 | ナノ
馬が足りません


!注意!
こちらは16幕終了後のお話です。16幕読了後に閲覧する事をオススメします。







「さ、アバルキンに行くわよ!」

 アルセル王を追い、戦争を止めるという大義を作ったロゼッタは、張り切ってアバルキンという街へ行こうとした。
 そうですね、と周りの面々も頷いているが、リーンハルトの表情は曇っていた。

「どうしたハルト」

 半ば無理矢理付き合わされる羽目になったリカードはもう諦めたらしい。横のリーンハルトの表情が優れないのを見て尋ねてきた。
 リーンハルトはさっきまで珍しく真摯な態度で周囲をまとめていた。その上滅多に見せない軍師の顔も覗かせていたのだ。それなのに途端に彼が表情を曇らせると、リカードは自然と身構えてしまっていた。

「いや……別に悪い話があるわけじゃないよ」

「ならどうしたのよ?」

 ロゼッタも歩み出そうとしていた足を止め、リーンハルトを訝しげに見る。
 全員の説得も済ませ、士気も高まりつつある面々。そんな中で晴れない表情をされたら、水を差されたも同然である。

「馬って何頭ある?」

「うむ、自分と兄上。それからリーンハルト、リカード、シリルの分」

「じゃあ、全部で五頭じゃないかな、軍師さん?」

 アルブレヒトが指折って数えていたが、ノアはさっさと暗算してしまう。
 そう、馬は五頭。ロゼッタは道中ノアの後ろに乗っていた為馬が無い。しかし、ここにいる人数を数えてみると、ローラントが加わった為に七人いた。

「あぁ、足りませんね……軍師、どうなさいますか?」

「ま、最悪の場合相乗り……っていうか、相乗りしかないよね」

 となると、組み合わせが一番困るわけである。
 一部の人達は顔を見合わせた。

「俺は絶対嫌だぞ……!」

 先手必勝と言わんばかりの勢いで叫んだのはリカードである。馬が無いのはロゼッタとローラント。どちらと相乗りしても、気分が悪くなるのは目に見えていた。

「あー、はいはい。駄々っ子は放っておいて……ロゼッタお嬢さん、俺の馬に乗ると良いよ」

「え、嫌よ?」

 さらりとした即答だった。

「だって、私を前に乗せて絶対胸とか触るでしょ。嫌よ絶対」

「おいハルト、お前行動読まれてるぞ」

 リーンハルトは否定しなかったがひどく複雑そうな表情をしていた。だが、彼を良く知っている人達は皆「そうだろうなぁ」と頷くのだった。

「だけど、軍師さん。男二人で相乗りって難しいんじゃない。流石に体格的に乗りにくいでしょ」

「そりゃね。男二人で馬に相乗りって状況も寒くて辛いけど」

 どうしたものか、とリーンハルトは考える。
 ここからアバルキンまで急いで行くならば、馬の方が良い。事態は刻一刻と迫っているのだから。

「じゃあ、もういっそとローラントくんはアバルキンまで走っちゃうー?」

 冗談めいた口調でリーンハルトは言う。勿論首都からアバルキンまでの道のりは長距離マラソンというレベルではない。確実に普通の人間が走れる距離では無いだろう。

「そうか、アバルキンまで走った事ないが、軍師殿の期待に応えられるように善処しよう。割りと体力はある方だとは思うが」

 リーンハルトだけではなく、ロゼッタやシリル、リカードも固まった。今までこういうタイプは周りにはいなかった。真面目なのか冗談なのが分からないのか、天然なのか。
 ボケに対してボケで返された気分で、ひどくリーンハルトは狼狽していた。もし相手がリカードならば「アホか」と一蹴されただろう。
 今までいなかったタイプのせいかやりにくい、とリーンハルトは感じた。

「あ、ロゼッタ様、これ。村に落ちてた」

 ふとポケットに手を突っ込んだアルブレヒトは、ポケットの中に何か固い物が入っているのに気付いた。それを取り出してみると、ロゼッタが連れ去られた夜に見付けた宝石のブローチ。

「私のブローチ……! そういえば一個足りないと思ってたのよね……」

 そしてロゼッタのポケットからは、他にも高価そうな指輪などが出てくる。どれも宝石が付いており、金や銀で作られている。見るからに高価だと分かるだろう。

「あの、軍師……」

「うん、何となくシーくんの言いたい事が分かったかも」

 その後、ロゼッタが何かの足しになると思って持ってきた宝石類は、見事に売り払われた。そして、そのお金で馬を一頭手に入れたのだった。



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