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静かな田舎町オルト。人口百数十人、それのほとんどが農民という小さな村の外れに小さな教会があった。孤児院としても活用されており、修道女の他に子供が十数名暮らしていた。
普段から子供達の声で騒がしいのだが、今日は一段と騒がしく……
「ロゼッタ=グレア!ここで反省していなさい!」
「す、すみません……シスター」
年老いた修道女の一人が、一人の少女を叱咤していた。怒られた少女も自分に非があるのを知っている為、身を縮こまらせて素直に謝っている。
彼女はロゼッタ=グレア。今年で十七歳を迎える孤児院に住む一人だ。赤ん坊の頃に実の親にここに預けられ、今までこの孤児院で育ってきた。預けられて以来、実の両親には会った事がない。が、そんな事彼女はあまり気にしてはいないようであった。
しかし元気なのが取り得、というより元気過ぎて彼女が幼い頃から修道女達は彼女に手を焼いている。今日も彼女は幼い子供達と、教会近くの大きな木で木登りをしていた為に怒られたのだ。
修道女達曰く、女の子がそんな事してははしたないという。
が、彼女がそんな小言で言う事を聞く筈も無く、怒られるのも今日で数十回目だろう。
「お姉ちゃん、毎回謝るのに毎回登るよねー」
「よねー」
戸口から小さい子供達がクスクスと笑いながらロゼッタを見ている。むっとするロゼッタだったが、ここで二人を怒れば修道女は更にロゼッタを叱咤するだろう。
ロゼッタはチラリと修道女を見た。彼女は今余所見をしている。逃げ出すなら今の内だろう。逃げればこちらのもの、年老いた彼女はロゼッタの足について来れないからだ。
タイミングを見て、彼女は一気に駆け出した。
「ロゼッタ!」
後ろから修道女の制止の声が聞こえるが、当然ロゼッタは聞こえないフリ。止まる筈がない。そのまま彼女は戸口に居た子供二人を抱えて教会を逃げていった。
しかし、彼女は楽しげに笑っていた。子供達も、その周りでロゼッタと修道女のやり取りを見ていた人達も皆。
そんなのどかな昼下がりだった。
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