10
「ローラントが貫きたいものって何?」
純粋な水色の瞳が、抉る様にローラントを見る。今の彼には彼女の言葉一つ一つが痛かった。
彼女の言う事も一理ある。多分それが理想的な生き方。しかし責任ある立ち場として、そう容易に決断できる筈もなく、心の中では葛藤していた。ただ一つ決定的に違うのは彼女の言葉が頭から離れなかったことだ。
「……」
沈黙したローラントに苦笑したロゼッタは、近くに合ったベッドの縁に腰掛けた。彼女がベッドに腰を掛けたことで、少しだけギシッとベッドが軋んだ。
無理に問い質すつもりも無く、答えを出すことを強制とはしなかった。
「貴方の人生だから貴方で道を探しなさい、か」
「……それは?」
「私の大好きな人から貰った言葉よ。私の背中を押してくれたの」
大好きな人、それで誰なのか彼にはきっと伝わった筈だ。だから、彼が詳しく聞く事は無かった。
きっと今頃シスターはロゼッタの身を案じているだろう。思いも寄らない別れを再びしてしまったのだから。もうしばらく帰れそうにはないが、ただシスターや教会の子供達は無事にいてくれれば良いとロゼッタは思う。
「……すまない、長々と話してしまって」
普段無表情のローラントの表情の違いは彼女には分からない。しかし、勘だが暗い面持ちをしているようにも見えた。
きっとロゼッタ以上に彼は思い悩んでいるのだろう。こんな小娘に相談する位なのだから、とロゼッタは思った。
しかし掛ける言葉はあまり見付からない。気にしないで、と言っては彼女が処刑を受け入れているみたいだ。だからといって、彼女の気持ちを押し付けても彼が納得するかどうか。
「……最期に話せて良かった」
それが彼の答えなのだろうか。相変わらず表情に起伏の無い彼からはその真意が読み取れない。
反応に困ったロゼッタは苦笑を滲ませた。
「これからどうするの?」
「普段と変わらないだろう。これから仕事に戻り……また騎士の務めを果たすだけだ」
そう、とだけロゼッタは答えた。
その後ローラントはすぐさま辞去した。しかし処刑までまだ三日はあるというのに、まるで今生の別れの様な瞳だった。
部屋に一人になったロゼッタは溜息を一つ吐く。
「……」
ベッドから立ち上がると窓際に近付き、城とは目と鼻の先にある城下町を見下ろした。ここに閉じ込められた日からその風景は殆ど変わりない。
もしかしたら仲間の誰かがもうあの街まで探しに来ているかもしれない、と甘い考えが彼女の脳裏を過ぎる。
しかし、頭を振りすぐにその考えを振り払った。
爪が食い込むほど彼女の右手は固く握られていた。
end
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