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体がだるく、重い。何だか手足の先まで重く感じる。
腹部も少しずきずきするような痛みもあり、どうしてこんなに体の調子が悪いのだろうか、とロゼッタは思った。
いや、それよりも此処はどこなのだろうかという疑問が浮かぶ。
「!」
疑問が浮かんだことで、ようやくロゼッタの朧げだった意識ははっきりと覚醒した。
ロゼッタは飛び起き、辺りを見渡した。そこに広がっていた景色は、教会でも離宮でもない室内。質素だが村の民家よりは広く、綺麗な印象を受けた。
そんな中、ベッドの上でロゼッタは寝かせられていた。
彼女の記憶があるのは井戸へ水汲みに行ったところまで。それ以降の記憶は綺麗に抜けていた。
「ここは……?」
井戸に水汲みに行ったと思ったら、いつの間にか見覚えの無い室内。表面上は冷静に見えるかもしれないが、彼女は困惑していた。
手が重い、と感じロゼッタは自分の手を見た。じゃらり、と鎖が音を立てる。
「え? 手錠……?」
両手首には分厚い鉄製の輪が付けられ、それを三十センチ程の鎖が繋いでいた。
こんな物、付けられた記憶が無い。それに教会にはこんな物がある筈がない。やはりここは教会ではないようだった。
状況が全く読み込めず、室内には人がいない。
とりあえずロゼッタは一つだけある扉に近付いた。これしか出入り口はないようである。
ドアノブを握り、ガタガタと揺らすが回らない。鍵が掛けられているものの、室内からは開かない仕組みのようだった。外側から誰かが開けてくれないと出れないのだろう。
そして、仕方なしに今度は反対方向に唯一ある窓へと近付いた。こちらも鍵は掛けられている。鎖で繋がれているのがベッドからでも見えていたからだ。
しかしもしこの窓が開いたとしても、逃げるのは不可能だろうとロゼッタは思った。
ここはまるで離宮の様だ。地面が遠く、決して飛び降りれる高さではない。確実に四階以上の高さはある。
「ここ、どこなの……」
窓の硝子に触れ、下を見下ろしながらロゼッタは怖々と呟いた。
状況は分からないものの自分は今監禁されており、ここから逃げられないようにされている事は何となく察した。
今自分が閉じ込められている建物のすぐ近くに町が見える。しかも割りと大きな町だ。だが窓も開かない状況じゃ助けを叫ぶことも無理だし、助けを叫んだところで近いと言っても聞こえる距離ではない。
「そんな……シスター、アル、ノア、シリルさん……」
不安が募り、その場にロゼッタはへたりこんだ。
親しい人の名前を呼んでも応えてはくれない。それでも呼んだのは気を紛らわせるためであった。
すると、窓とは反対方向――先程のロゼッタが開けようとした扉が、外側から開けられた。
俯いていた顔を上げると、閉められた扉の前には長身の男性がロゼッタをじっと見据えて立っていた。
長い黒髪を一つに結い、怜悧な灰色の双眸。少々冷たく見える表情の無い顔。その容貌には、ロゼッタには覚えがあった。
「ローラント、騎士団長……!」
ロゼッタは驚きで大きく目を見開く。
「……覚えていたか」
静かに答える彼の言葉は確かに肯定のもの。
その瞬間、此処がアルセル王の居城であることをロゼッタは悟ったのだった。
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