アスペラル | ナノ
2

 アルセル公国の国境沿いにある、小さな森……
 時刻は深夜を回ったものの、野宿をする四人の姿があった。既にすやすやと寝息を立て始めたロゼッタとその横で読書をするノア、そして火の番をしているシリルとアルブレヒト。

 アスペラルを出て二日程が経った。
 今回はアルセル公国から来た時とは違い、皆が馬に乗っている。やはり歩きよりは快適な旅であり、途中カシーシルを中継し二日目にはアルセル公国の国境を超える事が出来た。
 目的地であるオルト村はアルセル公国の南東。割りと国境近くの村の為、明日には村に着くだろうと予測された。

 明日には村にようやく着くということで、先程までロゼッタは落ち着きが無かった。しかし、慣れない馬の旅だったこともあり、気が付いたら寝ていたのだ。
 焚火に照らされながら毛布とアルブレヒトの上着を掛け具代わりに、ノアに寄り掛かって寝ていた。

「明日には着きますね」

 焚火に薪をくべながら、シリルは微笑んだ。
 最初は半ば強引にそして反対していたものの、彼ももう色々と諦めたらしい。隙有らばロゼッタを連れ戻すつもりではいたが、今では出来る限りのサポートをしようという事になっていた。村と家族の安全さえ確認出来れば、ロゼッタは戻ると言っていたのだから。
 が、未だにロゼッタには警戒されているらしい。ノアの横で寝ているのが証拠である。旅に出てから今日まで、無理矢理連れ戻されることを恐れたロゼッタはほぼノアと行動を共にしていた。馬に乗ってる時でさえ、ノアの後ろに乗っていたのだ。

「うむ。着く」

 腰から双剣を外して地面に置いたアルブレヒトは、体育座りで火を眺めていた。
 離宮にいた頃はロゼッタと四六時中一緒にいた彼だが、あの夜以来ロゼッタとはまともに会話をしていなかった。彼も一緒に村へ行くことになったとは言え、二人の間には蟠(わだかま)りが残ってしまった。
 普段ならノアの隣ではなく自分の隣へロゼッタを来させるものの、今はそうする事さえ無い。彼女がノアの隣にいることも黙認しているのだ。仮にロゼッタの隣に座ったところで、まともに会話すら出来ないだろう。

「……コレ、邪魔なんだけど」

 が、当のノアは寄り掛かるロゼッタが邪魔で仕方ないようであった。読書しながらも、素直に邪魔であることを口に出していた。

「ロゼッタ様、コレ扱い駄目」

「じゃあ、弟がコレ引き取ってよ。読書の邪魔」

「……」

 ノアに対して何か言い返したそうな表情を見せるものの、結局アルブレヒトがロゼッタを引き取ることはない。引き取れるものならばそうしたい、そんなところだろう。だが、アルブレヒトの複雑な心境がそれを阻んでいた。
 渦中にいる筈のロゼッタは呑気に夢の中である。

「まあまあ、止めなさい二人共。明日には村に着きますし、この調子だと戦場は村から結構離れてるみたいです」

 アルセル公国への旅路、その間ただ馬を走らせていただけではない。カシーシルなどの町に寄った際は、出来るだけシリルが情報を集めてきてくれた。戦場は国境沿いだが、どうやらオルト村は巻き込まれる範囲にはいないらしい。
 それに、そのお陰で彼ら四人はこんな森の中で野宿出来るのだ。本来なら戦場近くであれば野宿なんて危険過ぎて到底無理。が、こんな森まで戦争の火の粉は届いていないのが現状だ。
 勿論、人間に見付かればそれなりに危ない目に遭ったり、厄介な事態に陥る。ある程度の注意は払っていた。

「……残念でしたね、ノア。あなたの思惑通りにならずに」

 にっこりと笑ってみせるシリル。離宮を発つ際は彼に色んな面で負けたが、結果的には彼の目的は果たされることはなかった。
 ノアの目的はロゼッタの魔術を見ること……つまり、ロゼッタを危険な目に遭わせることが第一条件になる。オルト村が戦火に巻き込まれていないとなると、ロゼッタが危険な目に遭う確率はずっと下がった。

「……まあ、いいや。次の手でも考えるし」

「次があるとは思わないで下さいね」

 しかし、簡単に引き下がらないのがノアである。魔術の研究に関しては可笑しな程執着心を見せる彼は、いつかまたロゼッタを危険な目に遭わせようと画策するだろう。
 今回はアルブレヒト達が後手に回るという形になったが、次は確実に阻止しようと二人は決めていた。
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