引っ越しのあいさつ


何故か、昔話で盛り上がっていた時の、八左衛門の一言がきっかけだった。

「でよ、散歩中にいなくなった動物を探している時に出会ったんだよな名前」
「そうでしたね竹谷さん」
「そういや三郎は話したがらないから気になっていたけど、名前と三郎はどんな出会いだったんだ?」
「・・・・・なんで知りたいんだよ」
「別にいいじゃん」
「あ、俺も知りたいな」
「勘右衛門は面白そうだからだろ!顔に書いてある!」
「いいじゃない三郎。そんなにムキにならないで言っちゃいなよ」
「なっ、雷蔵まで」
「出会いって、名前が三郎へ引っ越しの挨拶したのが最初だろ」
「兵助は豆腐食ってろ。喋るな!」
「なんだよそれ!お前の勘違いが招いたから、最悪な出会いになったことがいけないんだろう」
「いいぞ兵助、どんどん喋っちゃえ」
「よし、ハチ。三郎を抑え込もう!」

お前らーといいながら、口を押えようとしたりしてちょっとした格闘技へと変化し始めた。

「その日は、僕との出会いでもあるんだよねー」
「まぁ、挨拶は2人にしましたからね。あと久々知君とも」

あれは確かと言いながら、小松田と非難していた雷蔵に話し始めた名前を未だ乱闘中の三郎は気づかなかった。



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イライラとしながらも、隣人に挨拶は人としての常識だよというメールを頂いて、自分の中にある怒りゲージが上がるのはもうこの際気にしないでおこう。
ご挨拶用の手土産も用意したからと追記されていた文字から目を逸らすと二つの紙袋が存在していた。
無駄に用意周到だと思いながらも、仕方がなしに挨拶へと行くのだった。

一つ目の隣人宅へとおもむき、インターホンを押すが、何一つ応答がなかった。
もう一度押すが、やはり応答はなく、仕方がなくもう一つの隣人宅へと向かう事にしたとき、エレベーターの扉が開くと、一人の男子学生らしい青年が歩いてきて、つい見ていた名前と視線が合うと、いかにも不機嫌ですというオーラを発しだした。

「あんた何?」
「は?」
つい敬語キャラで行こうと思ったものの、突然すぎるとこでまだ慣れていない事から、悪態つくような返答になってしまい、気を付けようと心の中で誓うと同時に彼からもう一度言葉が投げ出された。

「だから、人のドアの前に居てさ、あんたなんなわけ?」
「あぁ。ここの家の人でしたか」

私隣に越してきましたと続くはずだった言葉は、苛立ち気味に吐かれた彼の言葉に遮られることになった。

「こういうことしてるって最低だと思わない訳?」
「最低ですか」
「何、もしかして自覚ない訳?」
「ええ。いたって人として当たり前の行動だと自負しております」
「自覚ないとかありえねぇし。こういうことしてさ、相手に迷惑だとか思った事ないの?」
「あまり迷惑になる人を見かけたことはありません」
「なら、はっきり言ってやる。こういうのやめてくんない?迷惑なんだよね。相手の事も考えないで自分の事だけ考えてさ、しかも人の家までくるとか常識ないわけ?」
「そうでしたか。すみません、挨拶をここまで迷惑に思っている方に出会ったのは初めてでした。そうですね。時代とともに迷惑と感じる方がいるのかもしれません。それは個々の価値観でもありますし、いい教訓にもなりました。では、これ以上迷惑をお掛け続けるのもどうかと思いますので、失礼します」

生意気なクソガキ野郎がと心の中で悪態をつきながら、家へと帰ろうとした瞬間、メールの着信があり、見るとドンマイ次はもう一つの隣だよ!もう一つは平気だから!なんていうメールが来たが無視してやろうかと思った瞬間、軽くお腹が痛くなってしまい何故と思いつつも、隣人へと足を踏み出した瞬間痛みが和らいだことから、マジで?と思いつつもう一つの隣人のインターホンを押した。

はーい。どちら様ですか?などすごく軽い声に、隣に越してきたので挨拶をと言うと、ちょっと待っていて下さーい。と、また軽い返事が来た。
ドアが開くのを待っているが、名前は先ほどから気になっていることが二つあった。

一つは、先ほどの不機嫌なオーラから多少は和らいだが、挨拶に向かったが拒否られた彼から未だに行動を見られている事。
まるで監視されているかのように見えるが、まぁどうでもいいと思えばどうでもいいので、多少気になるが、その事に触れるほど気にはならなかった。
もう一つは、先ほどから2〜3メートルほど離れた位置からずっと立ち止まっている彼。そうだな、まだ名前は知らないから青年Bとしよう(ちなみに彼を青年Aとする)。
少し驚きの混じった表情を浮かべながら見られている。
何故だ・・・・・。
チラッと青年Bを見て見たが、整った顔をしていた。イラッとするくらいの肌の綺麗さに最近の男はこれだからと思うものの気にするなと言い聞かせる。だが、彼の視線は私というよりも、私の持っている紙袋へと向けられている気がする。
私が邪魔なのかと思ったので、一歩ずれるが、青年Bが動くことは何もなかった。
だから、何故だよ・・・・・。
AよりBが盛大に気になるし、そんな葛藤をしていると、ごめんね待たせちゃってとその場の空気を一掃してくれるがごとく扉が開いて、ナイスと思ったのは名前だけの秘密だ。

「お待たせしました。えっと」
「本日隣に越してまいりました。名字名前と申します。こちら知人におすすめされたものなのですが、明後日までにお召し上がりください」
「わざわざありがとうございます。僕は小松田秀作です。お隣になったことだし、これかもよろしく」
「はい。お気遣いありがとうございます。では、まだやることが残っていますので」
「もうちょっと話したかったけど、またねー」

フレンドリー感満載だったが、反対の人よりかは全然マシ。いや、好印象だ。
たとえ数か月しかないとしても、トラブルを起こすより良いに決まっている。
そう思いながら、家へと戻ろうとしたときに思い出してしまった。
今まで目を背けていたから見ずに済んだが、軽く視界に入っていたが、未だに扉のところにいて部屋へと戻ろうとしない青年A。
何だよと思いながらも、まぁ気にしない方向でと考えが一瞬にしてまとまったことから、歩き出して、自分の家の扉を開けて部屋へと入ろうとした瞬間、後ろから「あっ」という声が聞こえた。
それは、今までそばにいた青年Bだった。
何か用があるのかと思い、立ち止まると、青年Bへと視線を向けるが、青年Bは咄嗟に声を出したのか、何か言いたそうな目をキョロキョロしながら、口を開いては閉じてを繰り返していた。
このままでは一向に先に進まないと思った名前は問いかけることを選択した。

「何か用でしょうか?」

そう問いかけたのにも関わらず、青年Bは「あ」とか「や」とか「う」とかの言葉にはならない言葉しか口にしないので、面倒だと思ったのもあるが、やはり部屋へとと思った瞬間。後ろから兵助と青年Bの名前だろう言葉が聞こえたので、青年Aの知り合いかと結びついた瞬間関わらないとこうと心に近い軽く一礼をして一歩踏み出すとこころで手を掴まれてビックリしながら彼を見ると、少し焦った感じで言葉を詰まらせながらやっと発した。

「あの、俺、この横に住んでる、あいつの友達で久々知と言います。その、よく泊まりにも来ていて、あと、後、遊びにも来たりします。その、えっと、よ、よろしくお願いします」

何故友達である彼が挨拶をするのかはなぞだが、チラチラと視線が手土産の紙袋を見る姿からか、まさかの手土産狙いかと思ったが、もともと隣人である青年Aの分だったと思いだし、欲しがっている彼にあげようと思った。

「そんなに会う事もありませんが、わざわざ挨拶をして頂きありがとうございます。余ものですが、よければどうぞ」

と言いながら持っていた紙袋を彼に差し出すと、まるで繊細に作られた美術品を取り扱うかのように手に取ると、ありがとうございますと言って未だに立っていた青年Aの元へと歩いて行った。
一瞬青年Aと目が合うとなぜか、まるで悪いことをしていたたまれない感じで目を逸らされたが、追求する意味もないと思い、青年Bもとい久々知の後ろ姿を見て、やはり手土産狙いだったかと心の中で確定しながら今度こそ家へと戻った。


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まぁ、未来とのメールの事や、イラッとした感情は省いたが、こんな感じの出会いだったと喋り終えると、懐かしいねと笑いながらお茶を飲む姿にそうですねと言いながら名前もお茶を啜った。

「うわぁ、三郎最低」
「結局最後まで挨拶しなかったのかよ」
「うるさい」
「兵助は豆腐もらっただけだろ」
「俺はしっかりと挨拶はしたのだ」
「そうだけど、初対面の相手からもらう?」
「あの時名前さんが挨拶用に持っていた豆腐は有名で、なかなか手に入らないほどの素晴らしいもので」
「うん。分かったから、それ以上は勘右衛門に語っていてね。でもこれで、三郎が話したがらない訳がわかったよ」
「ら、雷蔵?」
「人としてどうかって言うのは、三郎のような行動を取る人の事だね」
「あの後ちゃんと謝りに行ったのに、なんでそこを省いて喋っているんだよ!名前のバカ!!」




こんな感じで



(END)
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